第4話☆東京都Cブロック大会

まだ4月なのに今日は日差しがきつく、夏のように景色が鮮やかに見える。

試合会場までは駅から歩いて15分かかったけど、今日の試合のことで頭がいっぱいで、作戦を考えているうちにあっという間に着いたように感じる。


高校女子プロレスの試合ではプロの団体が興行で使うような大きな会場は使えない。

特に地区予選では区民ホールや体育館にある会議室を使う。

今日も区の総合体育館で立派な建物だが会場は会議室だ。


全国高校女子プロレス選手権大会・東京都Cブロック大会


体育館入口に置かれた看板を見ると胸が熱くなる。

これから全国大会に繋がる試合が始まるんだ。

中学2年の秋以降練習に打ち込めなくなって、高校入学後もまともな練習はほとんどできていない。

周りの選手と差がついていることは覚悟の上だ。

それでも、勝ち上がっていけば全国大会に繋がっていると思うととてもわくわくする。

始まるんだ、ついに。


東京は4ブロックに分かれていて朝日丘はCブロックに入っている。

試合は学年ごちゃ混ぜのトーナメント形式。

まだまだマイナー競技で出場者も少ないはずだから4回くらい勝てば優勝だろう。

でも全国大会に繋がる大会で、3年生は最後の年なのでここに全てをぶつけてくる。

久しぶりの試合だけど、とにかく来月の都大会進出の条件であるベスト4入りに向けて2回は勝たなくちゃ。


早めに受付を終えて着替えてしまったのでウォーミングアップ用の柔道場に行くことにした。

試合までまだ時間はあるけど、出場する選手の雰囲気を感じたくて少し早めに行ってみた。

近くまで来るとバシっと畳を叩く音が聞こえてくる。

中に入ると受け身をする人、ストレッチをする人と様々だ。

練習相手と組み合って体を慣らしている人はたぶん試合の順番が早い人たちだろう。

端の方に荷物を置いて座り、ゆっくりストレッチしながら周りを見渡す。


高校生はやっぱり体格いいなぁ。3年生かな。私の相手もう来てる?うわ、あの人ボディスラム上手いな。この中にも1年生いるのかな。


ストレッチを一通り終えたので軽く受け身の練習から始めていく。

続いてジャンプしたところからの受け身、首ブリッジ。

怪我を防ぐための動きで体を温めていく。

あとは直前にもう少し体を動かしておこう。


「前田さんおはよう。もう受付は済んだ?」


ウォーミングアップを終えたところで堀田先生が来た。


「あ、先生おはようございます。さっき済ませました。試合までまだ時間ありそうです」


パーカーにロングスカート。

職員室でしか会ったことがないけど、こうして見るとOLの休日にしか見えない。

他の学校のコーチらしい人はみなジャージを着ているので結構場違いだ。


「そう。よかった。試合のことはわからないから何もできないけど、怪我しないようにね。」


試合に出るにはセコンドが必要で他に部員がいないので先生にお願いした。

セコンドの役目は選手の付き添いで主にサポートだが、リング上で危険な状況と判断したらタオルを投入して試合を放棄する権限もある。

とはいえ重いのを一発もらったり寝技に捕まったくらいでタオル投入されても堪らないので、素人の先生にはただの付き添いと伝えている。


「いえ、ほんと休日なのにありがとうございます」


せっかく来たから私の出番まで試合を見て待っていると言って先生は先に会場に行ってしまった。

もしかしてちょっと興味あるのかな。


少ししてから私も会場を観に行くとちょうど第3試合が終わったところだった。

思ったより早く進んでいる。

私は第6試合だから体を温め直して会場に向かおう。

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