一章
第1話:偽物と本物
僕の名前は、キーリオ・ディーモー。今年で18歳になる。
僕の家は、辺境伯のマルケラ・フォロス
次男という事で、家を継ぐことはできないため、成人になったら家を出て独立しなければならなかった。
そういう事なので、僕は成人となる18歳に「先日」なったため、予定通り今日家を出ることにした。
「父上、母上、兄上。今までお世話になりました。」
僕は、見送りに来てくれた家族に挨拶をした。
「うむ。これから大変だろうが、成功を祈っているぞ。」
「困ったことがあればいつでも言ってきなさい。」
「家のことは心配しなくても大丈夫だ。お前も頑張れよ。」
父、母、兄が僕に
「それでは、行ってきます。皆さんもお元気で。」
そう言って、長年住んだ実家を出た。
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「さて、まずは『冒険者ギルド』に行って『冒険者』として登録する必要があるな。」
僕は、自宅(領主の屋敷)からほど近い町に来ていた。
この町は、昔からよく訪れていたので、知り合いが多い。
「あら、キーリオ様、いらっしゃいませ。」
ここはこの町にある冒険者ギルド。実はここのギルドにはちょくちょく来ていたので、受付のギルド職員とは顔見知りなのだ。
「こんにちは、ミリアさん。今日は『冒険者』の登録に来ました。」
「そうですか。そういえば、キーリオ様は先日18歳になられましたね。」
「はい、そういうことです。」
「分かりました。それでは、早速手続きを始めますね。」
そう言うと、このギルドの人気受付嬢である「ミリア」さんが慣れた感じで冒険者手続きをしてくれた。
「それでは、冒険者の登録を行います。本来であれば身元を証明するものが必要なのですが、キーリオ様は領主様のご子息ですから、不要です。」
この国、「キトナムフロボン」は冒険者になるのに身元証明が必要となる。以前はそのようなものがなくても冒険者になることができたらしいのだが、それをいいことに刀傷沙汰や恐喝、窃盗など悪さをする輩が増えてしまったため、身元がはっきりしていない者は冒険者として登録できないようになったそうだ。
「あと、冒険者に必要な技能ですが、キーリオ様は以前いらしたときに確認しておりますので、問題ありません。」
そう言って、ミリア嬢は微笑んだ。
実は、一年前に領主である父や次期領主の兄と共にこの町に視察に来た時に、「たまたま」このギルド内で起こったもめ事を「僕一人」で「解決」したことがあり、その時に「『冒険者』としての技能は問題なし。」とギルドマスターが認めてくれたのだ。
「それでは、これでキーリオ様を『冒険者』として登録しました。」
「はい、ありがとうございます。」
「キーリオ様は既にご存じかと思いますが、念のためこの『冒険者ギルド』の説明をお聞きになられますか?」
「いえ、大丈夫です。」
「わかりました。詳細や、細かい規約はこちらのルールブックに記載されておりますので、ご一読ください。」
「わかりました。」
「それでは、早速依頼をお受けになられますか?」
「いえ、いろいろ準備をしますので、明日にします。それじゃあ、いろいろありがとうございました。」
「はい、それでは明日お待ちしております。」
そう言って、僕は冒険者ギルドを出て、今日泊まる宿に向かった。
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僕が宿屋の一室でミリア嬢からもらったルールブックを呼んでいると、扉をノックする音が聞こえた。
「キーリオ様、失礼いたします。キーリオ様にお客様がいらっしゃっていますが、御通ししてもよろしいでしょうか?」
ノックしたのは宿屋の女将のようだ。それにしても僕に客?誰なんだろう。
「う~ん、誰か分かるかな?」
僕がそう聞くと、扉の向こうの女将は、こう答えた。
「フードを深めにかぶっていらしたので、顔を確認することはできませんでしたが、声と体格から女性のようです。あと、武器の類はお持ちではありませんでした。」
う~ん、もしかしてミリア嬢かな?何か伝え忘れたことがあったからわざわざ来てくれたとか。でもそれだったら、顔を隠す必要はないよな。そもそも、ミリア嬢だったら女将が知らないわけがないしな。
武器を持っていないとのことだから、僕に危害を加えるつもりは無いみたいだけど、油断はしないようにしておこう。
「わかった、それじゃあ連れてきてくれる?」
「分かりました。それでは少しお待ちくだ...、お、お客様!?いつの間にこちらに?!!」
「ごめんなさいね。火急の要件なので来てしまいました。」
なにか、扉の向こうで女将が慌てているみたいだが、僕の客がここに来ているのかな?
聞こえてきた声からすると、やはり女性のようだ。それにしても、鈴が転がるような美しい声だな。こんな声で話す人は記憶にないな...、いや、ある?
何か特殊な部屋で聞いた気がするが、僕の記憶の中にはそんな場所に行ったことはない。どういうことだ?
そんなことを考えていると、扉の向こうからその女性が「入ってもよろしいですか?」と尋ねてきたので、僕は「どうぞ」と答えた。
扉を開けて入ってきた女性を見てみると、確かにフードを深めに被っているため、顔ははっきり見えないが、間違いなく「美人」である。
背丈は僕と同じぐらいか、若干低い程度、全身を覆うポンチョらしきものを着ているが、服の上からも分かる位見事なプロポーションをしている。
しかし、こんな人は僕の知り合いにはいない。少なくとも、「僕の記憶」には該当する人がいない。
僕が彼女を観察していると、何か後ろ手でもぞもぞしながら、口を開いた。
「初めまして、ですかね?私は『イリス・ソルティオス』と申します。『出望桐夫(でもうきりお)』さん。」
ん、何だ?「デモウキリオ」って誰だ?
「いえ、僕は『キーリオ・ディーモー』ですが、他の誰かと勘違いしていませんか?」
そう僕が答えると、彼女は僅かに口角を上げて、
「・・・どうやら、『封印』は上手くいっているようね。」
そう呟くと、彼女は目深に被っていたフードを脱いだ。
そこには、輝くような金髪で、耳が長く尖り、磁器のような白い肌で
「っ!お前は『エルフ』っ!!」
僕はそう叫ぶと、ベッド横に立てかけていた長剣に手をかけた。
その瞬間、僕は金縛りにあったように動けなくなった。
僕は、何故か動かせる頭を、目の前のエルフに向けて睨みつけた。
「・・・やれやれ、この国は『人族至上主義』と聞いていたけれど、まさか『問答無用』で丸腰の女性に斬りかかろうとするとはね...。」
そのエルフは呆れたような声を出して、僕の顔を覗き込んだ。
「無駄な抵抗はしないでね?その身体は、私の大切な人のものだから、傷つけたくないの。」
そう言って、目の前のエルフは天使のように微笑んだ。
「な、何をするつもりだ。
そう僕が叫んでも、エルフは微笑んだままで表情を変えない。
「くそっ、誰かっ!ここにエルフがいるぞっ!早く捕まえてくれッ!!」
僕は大声で助けを呼んだが、誰かが来る様子はない。
「・・・キャンキャン
「この部屋に入ったときに、音響結界を掛けたから。」
目の前にいるエルフが、目を細めて無表情な顔でそう言った。
そうか、さっきこいつが後ろ手でもぞもぞしていたのは、結界を張っていた仕草だったのか!
「ぼ、僕をどうするつもりだ。」
救助の芽が
「心配しなくても、別に取って食おうとか思っていないから。」
「ただ、アンタには『お休み』してもらうけどね?」
と言った。
「ど、どういうことだ...。」
そう言おうとしたら、エルフが僕の目の前に手を
「アンタのその身体を、『本当の持ち主』に返すのよ。別に痛くないから、何も心配することないわ。」
目の前に出された手の隙間から見たエルフの顔は、輝くような笑顔でとても嬉しそうだった。
僕にはそれが、「悪魔の微笑み」に見えたのを最後に、意識が途切れた。
「ここまでこの身体を育ててくれてありがとう。これで『あなた』の役目は終わりなの。ご苦労様。」
意識が途切れる寸前、そんなことを
・・・
「ああ、別に怖がらなくてもいいわよ?別に『殺したり』はしないから。」
「ただ、アンタの魂は『永久に』目覚めないようにするけどね。」
エルフは、独り言のように呟いた。
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「・・・んん、ここはどこだ?俺は、どうなったんだ?」
俺は、はっきりしない頭を振りながら今までのことを思い出していた。
「確か、『死後の世界』で女神様に会って、異世界に転生させるとか言っていたような...。」
そんなことを呟きながら、ふと視線をあげると、そこには満面の笑みを湛えた超絶美人がいた。
「あ、あなたは誰...、いや、その雰囲気には覚えがある。もしかして、『あの時』の女神様?」
そう言うと、目の前の女性がいきなり抱き着いてきた。
「18年も待たせてごめんなさぁーいっ!!約束通り、あなたの『妻』になるために『転生』してきたよぉーーーっ!!」
そう言って、彼女はその豊満な胸に俺の顔を挟み込んだ。
「あ、やっぱりあの時の『女神様』なんですね...。って、く、苦しい...。」
そう言って、俺は幸せな感触に包まれて意識を手放した。
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ここの
ちなみに、「キーリオ君」は思い違いをしていますが、イリスが扉を背にしてもぞもぞしていたのは、後ろ手で「鍵を掛けていた」行為で、音響結界は彼女の証言通り部屋に入った「瞬間」に張っています。
あと、イリスに「永久封印」させられた「キーリオ君」ですが、今の所家族共々再登場する予定はありません。
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