ここに立つ

雪桜

ここに立つ



あの人がそう言ったから、私の世界は完成してしまった。

塩っぱくて暖かい、母の呼吸。

このままではいけない。だが私はそれが心地よかったのだ。

風に触れて、太陽に触れた。滲んだ視界の先に、手。震える指先は酷くかじかんでいた。

空の足跡。揺れる水面。全部同じだった。

私が私を呼ぶ。海に漂う母に向かって。

私が私を呼ぶ。空に漂う母に向かって。


波しぶきが、私に落ちる。まつ毛が濡れる。

泣いている?この味は。

でも舌ももう無い。

「貴方は天使」

海は言った。

「私の天使」

海は言った。


私の血は錆び付いて、砂浜に埋もれた。

骨も呼吸も置いてきた。

遠くには何も見えない。

地平線すら見えない。

あなたの海で、漂う。魂。

ああ。


ここに立つ。

あの日、夏の終わり、あなたに届けたかった祈り。

あの日、冬の始まり、あなたに届けたかった祈り。


ここに立つ。

あなたの胸に抱かれたい。

それが私の世界の果てなのだから。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ここに立つ 雪桜 @sakura_____yu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ