第49話
グイニスはいつも揺れている。死んだ方がましなんじゃないかと思う一方で、死ぬのがとても恐いと感じる自分もいて揺れている。だから、フォーリもシークもベリー医師も誰も気づかないうちに、独りぼっちで死ぬことになったら、とても恐いと思うようになった。つい、数ヶ月前まで、そんなことすら考えたり思う余裕もなかったのに、不思議なものだ。
いや、欲深いのかもしれない。心に少し余裕が出来てきたら、途端に死にたくなくなってきたのだ。
それに、自分の身の保身だけでなく、本当にフォーリが死んでしまったら、殺されてしまったら、それを思うと体が震えるような恐怖を感じる。
グイニスの側にいるという理由だけで、周りにいる人達が一人、また一人と死んでいくのだ。見知らぬ人達でも、死んだという話を聞くのは恐かった。自分の代わりに、あるいは関わったから、あるいは間接的に周りにいる人達の身内や家族だから、そういう理由で死んできた。
だから、見知っている人達の死は、とても恐い。絶対に死んで欲しくない人達が何人かいる。フォーリもその一人だ。フォーリは自分はニピ族だから、グイニスが死ぬ時が自分も死ぬ時だと言ってくれる。ニピ族は自分で仕える主を決め、主が一生を終えてしまうと、心が折れて生きていられなくなり死んでしまうのだ。
それでも、フォーリが死ぬのは嫌だった。だから、自分ではなくフォーリの安全を図るのだ。いや、フォーリの安全は自分の安全でもある。
「もし、同じニピ族なら? もし、同じニピ族ならフォーリの寝込みを
「確かにそれは、そうですが……。しかし、ニピ族の
「でも、そのニピ族の掟に反する者がいたら? それに、ニピ族でなくても武術を極めた者ならば、寝込みくらいなら襲えるはずだよ。先生だって覚えてるでしょ。ノンプディの屋敷でヴァドサ隊長がニピ族達と試合で対戦した時のこと。」
その時のことを持ち出すと、ベリー医師の眉間に刻まれている
「ヴァドサ隊長はレルスリのニピ族四人全員を倒した。フォーリには負けたけど、フォーリは後で本当の勝ちじゃないとか言ってたもん。敵にもヴァドサ隊長みたいな人がいてもおかしくない。それに、敵にもニピ族みたいな人がいるって忘れてないでしょ。」
「…確かにそうですが、今回もいるとは限りません。頭の痛い問題です。」
「ね、だからベリー先生はフォーリの側にいて。」
持って回った言い方をしたせいか、ベリー医師がじっとグイニスを見据えた。
「若様。何をするつもりですか?」
ベリー医師が鋭い目つきのまま尋ねる。はっきり言って、とっても恐い。下手をすると何もかも見透かされてしまう。でも、フォーリやベリー医師、シークにグイニスのしようとしていることが
だから、まずはフォーリに眠って貰ったのだ。その次にベリー医師に理由をつけて、フォーリの側にいて貰う。親衛隊はその任務の都合上、絶対にグイニスの側から離れないので、完全にいなくなることはない。それに、シークだったら叱られてもベリー医師より恐くない。
「……何ってお出かけ…お散歩だよ。」
「…ふうん? 本当にそれだけですか? 私にここに残っていて欲しい理由は何ですか?」
「…えぇっと、だから……。」
ベリー医師にじっと見据えられて、グイニスは逃げられないのを感じた。考えてみれば、一応、フォーリの次に強いかもしれないのだ。なんせニピの踊りを身につけているのだから。
はっきり言って、親衛隊の隊長であるシークの方がずっと
子供の頃から子守をしていたと聞いている。そのせいもあってか、グイニスは彼と初めて会った時から怖さというものはなく、なぜか父親像を重ねた。
シークは誠実な青年で、グイニスがどんなに言葉に詰まっても、行動が遅くても馬鹿にしたりしなかった。ゆっくり進めばいいと言ってくれて、かなり緊張が取れてほっとしたのを今でもはっきり覚えている。
ここに来るまでに色々大変なことがたくさんあったが、シークがいなければグイニスは何度か死んでいたかもしれない。フォーリもベリー医師もグイニスの命の恩人だが、もう一人別の命の恩人だ。
この間はそんな彼に当たり散らしてしまった。実は彼に子供が生まれると聞いて不安になったのだ。自分の子供が生まれたら、出来損ないの王子であるグイニスを見捨てて帰って行ってしまうのではないかと。だから、彼に見捨てられるのが恐くて当たってしまった。
後でフォーリやベリー医師、シークの三人から、どうして、あんなことを言ったのか問いただされた。本当は言いたくなかったが仕方なく白状すると、シークが決して見捨てないと約束してくれた。フォーリの他にも自分の味方がずっと側にいると安心した。彼の家族には悪いと思うし、ずるいと思うが側にいて欲しいのだ。
独りぼっちはとても恐いし、寂しいから。
しかし、シークは親衛隊の任務以上に、グイニスを何度も助けてくれたので、彼はそのせいで体を壊してしまった。フォーリがその分、今は頑張っている状況だ。
それに、シークは別のことについても恩人だ。グイニスに“鬼ごっこ”という名の訓練を部下達と一緒に受けさせてくれたり、個人的に叔父に内緒で剣術の指導をしてくれる。
そのおかげで自信がついて、こっそり村に出かけてセリナと会うことができたのだ。普通に話せるようになったのも、シークが護衛に来てくれるようになってからなので、グイニスは感謝している。いつか、お礼を言えたらと思っていた。もし、話せなければセリナと友達になることもできなかったのだから。
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