5章 友達と屋上で昼食を

終わった世界

 その世界はとっくの昔に死んでいた。

 

 世界を作った神様ができる限りパラメータを入れたくないとでも思ったのか。暗く淀んでいる空は一色に塗りつぶされていた。道路に落ちた枯葉も、自転車の邪魔になりそうな大きさの石ころも、アスファルトの隙間を潜って生えた雑草も全て、風がないせいで止まっている。広間の時計の針の音とアスファルトを踏む靴の音だけが時の存在を感じさせた。

 一歩が強く響く。


 商店街一の肉屋、薄利多売を追求、弁当最安値、憩いの場を提供……寂れた看板に書かれた謳い文句がかつての足音を現代へ遺していた。当時の勢いはどこへ行ったのか、個性的な要素が抜け落ちて、統一されたシャッターが並んでいた。


 無彩色の風景は研修でも見ている。白一色の世界、しかし空間から零れた数々や子供たちが勢いを残していた。いっそのこと更地にしてしまった方が人の気配があるのでは。そんな考えが過ぎるほど、僕は虚ろな空間だと感じてしまった。


 世界の主は何を見せようとしているのか。数々の世界を治してきた彼女であれば容易く修繕できる。廃墟であることを望んでいるのかもしれない。何度も僕たちを振り回して先導してきたあの人のことだ、十分にあり得る。


 制限時間が分からないのに、ここで堂々巡りをしていても仕方がない。幸いなことに今の僕には確かめる術があった。背負っていたものを床に下ろして得物を手に取る。初めての出会いに反して、掴み心地は十二分だった。


 傾いて方向が滅茶苦茶になった交通標識へ、最初の1回を振りぬく。


 願わくは彼女が疑われることなくすべてを解決して、笑顔で現実世界へ戻ってこられますように。




















 先輩――天青彩葉の仮想世界の片隅へ、エゴを思いっきり叩きつけた。

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