ペアリング<恋人>実習で学年一美少女の彼氏に平凡な俺が当選した件
滝川 海老郎
第1/5話 恋人AI抽選
高嶺の花だと思っていた。
工藤ミリア、高校1年生。学年一の美少女と名高い。
一方の俺は平凡をキープし学年順位真ん中、可もなく不可もなく。
誰からも好かれてると言うよりあまりにも存在感が薄い。
俺、山口登。15歳。
恋しちゃいました。
うん、ミーハーだとかなんだとか言われてもいい。
ミリアちゃんに恋をしていた。ライバルは多い。
そんな中、全国の普通高校に近年正式採用された制度がある。
それが「ペアリング実習」通称「<恋人>実習」である。
近年まで、少子高齢化は進行し、半数近くが「恋人がいたことがない」という統計が出るまでになっていた。
いわゆる草食化の進行だ。
子供手当など、子供が生まれた後のケアを考える政策は今まで実施されてきたが、どれもぶっちゃけ効果がなかった。
そりゃそうだ。多くの若者は子供を作るときにそんな未来まで見て考えてない。
ならどうしたらいいのか。
恋人を強制的に作る。恋愛経験ゼロの人はいつまでもゼロだが、一度経験したら、もっと多くが結婚までいけるのではないか。
何事も最初を踏み出すのが難しいんだから。
そこで男女比が同じくらいの普通高校の多くで恋人実習がカリキュラムとして導入された。
今まで授業などではないがしろにして、なぁなぁにしてきていた、異性と話すことから始めるのだ。
ちなみにこれは強制である。
学内に恋人がいる人は事前申請が必要だが、それには恋人になってから一か月以上など制限がある。
また二股は許可されていない。浮気なんてのはもっての外である。
結婚が前提なのだ。そのままゴールする子たちは多くないとはいえ、皆無ではない。
俺と友人の東川実は放課後、その話題をしていた。
「楽しみだよな、登」
「ああ、俺にもついに恋人が」
「まあ疑似だけどな、疑似」
「え、でもほとんどの人が実際に付き合っちゃうんだろ?」
「らしいな。みんなお盛んなことで。登も期待してるだろ」
「そういう目線で見るなよ」
「わりぃわりぃ」
とはいえ、実際に期待しているのは本当だ。
それより気になっていることがある。
それはミリアちゃんが誰とパートナーになるか、だ。
クラス内では散々ネタにされたが、彼女は恋人申請をしていないという話だった。
「彼氏はいないみたいだが」
「だろ、登。当たるといいな、マジモンの恋人ガチャ」
「言い方。でもそうだな。SSRのミリアちゃんをゲットしたら月まで飛んでいきたい」
「あはは、そりゃ難しいな」
「でも1/20くらいだろ、5%か。宝くじとかゲームのガチャより高い」
「ああ、だからみんなそわそわしてんだろ」
「お、おう。緊張してきた」
そうなのだ。今日の放課後、そのガチャの抽選結果が出る。
ガチャといっても普通のガチャではない。
AIが各生徒のあらゆるデータ。DNAまでを含めて、適合率を総合判断して、いい感じに決める。
「AIだぜ、AI。な、登」
「今、すげえ普及してるからな。まったく怖い世の中になったもんだ」
「俺、信用できねぇよぉ」
「お前はアナログ人間だもんな」
「ははは、やっぱ紙と鉛筆ですわ」
「あみだくじってか、それのほうが怖いわ」
四十代のおっちゃん。我が担任、佐々木先生が廊下から教室に入ってくる。
「みんなぁ、はいないか、いないやつには、あとで連絡してやれ」
「はーい」
「では発表するぞ」
「「「おおおぉおおおお」」」
教室内から歓声が聞こえる。
「やった、私、西村君だ、やっりー」
「げ、俺は幼馴染の平沢じゃん、いや、嫌いじゃないけどよ」
「うううおおおおお、やりました! 山口登、工藤ミリアちゃん、SSR引きました!」
「やったな、登」
「登かよ、ちぇっ」
「登かぁ、まあ、毒にも薬にもならないってやつか、これ」
女子の集団からミリアちゃんが押し出されてくる。
「ミリアちゃん……よろしくお願いします」
俺がガバッと頭を下げる。
「登君か、よかった。よろしくね」
笑顔がかわいい。
そう、この顔。いつも笑顔を絶やさないその優しさ。
本当は陰であることないこと言われていることくらいみんな知ってる。
でも彼女はそういうことを表に出さないのだ。
いつもみんなのことを考えてくれる。
そういう強い一面も、好かれている要因の一つなのだ。
「じゃあ、登君、握手」
「あ、ああ、よろしく」
手を握り合う。あったけぇ。
だけど、その手は震えていたのだ。
他の人からは、わからない彼女の感情が少し読み取れる。
彼女だって、怖いんだ。恋人実習が。
ニコニコ笑顔の裏には、そりゃ不安の一つも二つも隠してるのだ。
俺はぎゅっと彼女の手を握り続ける。
すると彼女の笑顔が少し柔らかくなり、震えが収まってきた。
「登君……」
「いや、わりい。大丈夫だから。一緒に頑張ろう」
「うんっ、ありがとう」
「こっちこそ、ありがとう、こんな俺なんて選んでくれて」
「私が選んだんじゃないよ。AIだよAI」
「まあそうなんだが、希望とか聞かれるんだろ」
「うん、実はね。そうなの」
希望に俺の名前を書いてくれたってことか。
そりゃうれしいを通り越して、感動ものだね。
「じゃあ一緒に帰ろうか? バグバグバーガーよってく? 登君?」
「いいね、そうしよっか」
俺たちはクラスメートを掻き分けて、二人で帰る。
それはまるで姫と勇者の気分だった。
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