第75話 婚約破棄をするアレクシスに復縁を申し出るカルロス
アレクシスは仲間たちを見る。
イバン、アルフォンス、カルメンはびくりと背筋を伸ばす。仲間とは言え仕方のない反応だった。あまりのワンサイドゲームっぷりに恐怖すら覚えてしまった。
そんな彼らにも元淑女はスカートを摘まみ上げお辞儀をした。
「……皆さま方、今まで大変お世話になりました。あなた方との日々はこのアレクシス・バトレ、夢のように楽しかったです。ですがいつか夢は覚めるもの。わたしは本日カルロス様との婚約を破棄し、貴族の身分も返上し、ただのアレクシスに戻ろうと思います」
突然の申し出に三人は頭が真っ白になる。
「は、なんでまた」
「お姉さま、一体何を考えてるの」
「わからぬ……拙には貴様の考えが到底理解できない……」
理解が追い付かないし納得がいかない。
「納得いかねえぜ……!」
特にイバンは拳を震わせるほどに激怒していた。
「アレクシス! お前はずっとカルロスと復縁したくてここまで来たんだろう!? 俺の復縁も断ってさ!」
「ええ、そうです。考えが変わりました。わたしはあまりにも多くの人を欺きすぎた。ここにたどり着くまでの道中、魔女と罵られました。何も言い返せませんでした。カルロス様は多く民の上に立つ身。その側に嘘の多い不誠実な女はふさわしくありません」
「そんなの関係ないよ! 嘘や隠しごと、人に言いたくないことは誰にだって少なからずある! そんなつまらないことでカルロスお兄様との結婚を破棄しちゃうの!?」
アルフォンスの説得も届かない。
「それだけではありませんわ! わたしは、この姿のわたしをどうしても愛せませんの! 愛せない自分を、大好きな人に愛してもらおうなんておこがましいですわ!! 本当はこんな段差だらけのデジタルのような身体じゃなくすらりと曲線美のあるアナログのような身体になりたかった! ヘラクレスのような武闘派じゃなく魔法とステッキで戦う魔法少女のようになりたかった! 姿を偽らなければブティックでお気に入りの服も袖を通せない! 憧れの結婚指輪だってこの身体に合うサイズはございませんわ! 好きで、こんな身体にはなりたくなかったんですのよ!」
男二人は涙ながらに話す彼女にそれ以上何も言えなくなった。
ただし同じ女であるカルメンは違った。
「ふざけるなよ、アレクシス……! 貴様はつい先日言ったよな、大事な人に素顔を見せろと!」
「ええ、本当、自分のことを棚に置いた最低最悪の発言でしたわ。なんとお詫びしたらいいのやら」
「違う! 拙が怒っているのはそっちではない! 貴様が、カルロスの気持ちに向き合わないことが許さないんだ!!」
「カルロス様の、気持ち……?」
婚約破棄をされたカルロスは自分の足で歩いて、アレクシスの元へ。
「アレクシス。君に僕の気持ちを聞いてほしい」
「嫌ですわ! 聞きたくありません! 所詮叶わぬ恋でしたが、あなたから拒絶されたらもう生きていけませんわ!」
カルロスはお構いなしにアレクシスのごつごつの手を取って跪く。
「アレクシス。改めて言う。僕と結婚してほしい」
そして二度目のプロポーズを伝えた。
「え、あ、え、ええ、ええ、ええ?」
アレクシスの頭が真っ白になる。あまりの衝撃に涙が止まる。
「ど、どうしてです? こんなわたしなんかに、愛せる点なんてないでしょう? だって膝がナッ〇なのですよ?」
「君がそう思うなら無理に変える必要はない。だけど僕は君への愛は変わりはない。魔法に惑わされ信用は地の底に落ちてるけど、でもやっぱり、君以上の女性を僕は知らない。ずっと側にいてほしいという気持ちに変わりはない」
「でも指輪が……結婚指輪ははまりませんわ」
「それならこうすればいい」
カルロスは自分の指に着けていた指輪を外し、
「コンティゴ、パニ、セボヤ」
冶金魔法を唱えて新しくネックレスを作り出す。
ネックレスに指輪を通し、
「かがんでくれるかい?」
おずおずと屈むアレクシスの首に指輪付きのネックレスをかけた。
「うん、よく似合っている」
カルロスは爽やかな笑顔を浮かべた。
「本当に……いいんですの?」
「指輪交換の儀式のことかい? 僕は特に気にしないよ」
「そうでありません。本当に、わたしで、いいのかと」
「君しかありえないんだよ。そろそろ君の答えを聞かせてほしい」
アレクシスはカルロスの手を取った。
「不束者ですが、嘘ばっかで、泣き虫でへなちょこで、ゴリゴリマッチョで淑女にほど遠いわたしですが、あなたと共に人生を歩ませてください」
こうして二人は復縁した。
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