第72話 沈むアレクシスとすべてを差し出すカルロス
まるで洗濯機に入れられているようだった。世界が回転し続ける。とっくに上下の感覚は消え失せた。たまに外の世界の音が聞こえたような気がするけど聞き取る前に激しい水流の音にかき消される。
(はて洗濯機とはなんでしょう?)
どうやら意識がもたないどころか、おかしくなったらしい。目が回って混乱しているのだろう。
息が苦しいのか苦しくないのかさえわからない。
足掻こうにも足掻けなかった。あまりの激しい水流に身体を動かしているのかさえおぼつかない。海の冷たさに感覚を奪われたか、もしかしたら手足はとっくにもげているのかもしれない。
回転が止んだと思うと辺りは暗くなっていた。
新月の夜より岩で閉ざされた洞窟よりも真っ暗だった。まるで太陽の光が届かない海底にいるみたいだ。目を開けているのか閉じているのかもわからない。
(ああ、悪夢ですわ……死ぬ間際に辛い過去を思い出すなんて)
なんて思うけど辛いのは今も同じだった。
今も昔も変わらない、イケメンを愛せても自分を愛せないダメダメなわたし。
でも最期まで自分を認められず愛せなかったけど他人を尊敬し愛すことができた。
自分の小さな命で、大きな命……カスターニャ王国の至宝……いや太陽を救うことができた。
(上出来よ……上出来……最後の最後に淑女っぽいことができましたわ……淑女のこと、本当はよく知らないのだけど)
意識が薄れていく。口の中が冷たくなっていく。心に宿した太陽が消えていく。
ドボン!
まるで何かが飛び込んでくる音。
どうしてだろう、死ぬ寸前だというのに心が躍る。
太陽が、あなた様が、近づいてくるとわかる。
ひとりぼっちの深海でも存在を感じ取れた。
(ああ、側にいるのならもう一度……一目だけでも……お会いしたい)
面食いはいついかなる時も、今際であろうと
目を開いたつもりになる。するとそこにカルロスはいた。本物の彼がいた。
(ああ、なんて図々しいのでしょう。一目だけお会いしたいと思っていたら今度はずっと見ていたいと思ってしまう)
だけど息がもたない。さすがの面食いもイケメンで空気の補給はダメだった。
万策尽きたと思った瞬間、唇に熱を感じた。情熱の息吹を吹き込まれ、消えかけていた胸の中の太陽が火を灯す。
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