第69話 自分は魔法派と謳うアレクシス嬢

「この女!! よくもこの私様を足蹴に!!」


 アレクシスに巨大な手が迫る。


「何度だって足蹴にしますわよ!」


 タイミング良くジャンプして躱すと、その手ごとまとめて踏み抜く。

 ただ踏んでるだけではいくら淑女の中の淑女だろうと怒りは収まらない。


「この手が二度と悪さをしないようにしっかりと懲らしめないといけませんわね!」


 巨大化したマリアの頭の上でアレクシスは素早く、それでいて重い足さばきを見せた。次第にそれは火を吹き始めた。


「あ、あれは……ロデオ城でも見せた灼熱のサパテアード!」

「のはずなんだけど、微妙に違うくない?」


 あれは火が次第に広がっていく技だった。

 しかし今、目の前に繰り広げれているのは、


 バゴオン! ドガーン! ズドーン!


 踏み込むたびに爆発が起きている。


「おーっほっほっほ! 炎魔法に風魔法を加えた灼熱のサパテアード改め爆裂のサパテアードですわ! 焼き魚にして差し上げますわ!」


 あの時は炎に包まれるため呼吸を止めなければいけなかった。そこに風魔法を加えることで弱点カバーしつつもさらに威力を高めることに成功した。


「でもあんな無茶な魔法の使い方したら魔力切れを起こすんじゃ」


 そんなアルフォンスの心配をよそにアレクシスは無茶を続ける。


「くそう!! いい気になるなよ!!」


 マリアは空いていた手で高圧の水鉄砲を放つ。


「きゃああああ!!!」


 アレクシスは高圧の水に飲みこまれる。


「はははは!!! 思い知ったか!!!!」

「なんて、幻炎魔法ですわ」

「なにぃ!!???」


 高圧の水に飲みこまれたのは分身。

 本体はマリアの目の前に。


「私が魔法派だってところをお見せしますわ!」


 重ねた両手を右脇に引き込む。


「しゅ~! く~! じょ~!」

「なにをするつもりか知らんが、させるか!!」


 マリアは口から鉄砲水を吹き出す。


「波~!!」


 アレクシスは避けなかった。魔力を溜めて高出力の炎魔法を真正面から放つ。

 出力されたのは光線ではなくただの火炎放射なのだが、大量の水を一瞬で蒸発させるほどの熱量。


「こんなふざけた技に私様の攻撃がかき消されるだと!!?」


 火炎放射はそのまま巨大化したマリアの身体を一飲みした。


「おーっほっほっほ! これが本気を出した私の魔法ですわよ!」


 あまりの凄まじさ、スケールの大きさに敵よりも、


「……さすがだね、アレクシス」

「……俺、必要だったかな」

「……お姉さまは別次元の強さだとは聞いてたけどまさかこれほどとは……」

「……これがヘラクレス、か」


 味方が圧倒される。

 アレクシスはじろりとカルメンを見る。


「カルメン。まじで親衛隊中にヘラクレスの名前が広がっておりますのね。私びっくりしましたわ。ちなみに誰が最初に言い出したかわかります? せめてイニシャルだけでも」

「さ、さあ……? 見当もつかない。今度調べておく」

「お願いしますわよ。最初に言い始めた方ときっちりとお話しないといけませんので。ヘラクレス様にも失礼でしょう?」


 マリアは口から水を吹き出し全身に纏わりつく火を消した。


「くっ……認めるしかあるまいな……今は貴様が強いということを……」


 鱗の一部が焦げて剥げ落ち、下の皮膚が垣間見える。


「力の差がわかったのなら早く降参したらどうですの? さもなくばミディアムからレアになってしまいますわよ。牛ではなく魚ですけれども」

「いいや、私様にはない弱点がお前にはある……」


 高密度の魔力がマリアの身体から漏れ始める。


「くらえ、広域攻撃魔法見渡す限りの海オーシャンビュー!」


 マリアの足元から高波が生まれる。


「これは、いけませんわね!」


 アレクシスはすぐさま敵の狙いを察知し背中を向けた。


「あの攻撃、狙いは僕たちか!」

「ありゃあ飲み込まれたらひとたまりもないぜ!」

「アルフォンス様! 拙に掴まってください!」

「うん!」


 礼拝堂から出ようとするが高波の速度は人の走りよりも早い。


「皆様方、逆です! どうか立ち止まり固まっていてください!」


 アレクシスは考えをもって仲間たちを呼び止めるが、


「そうは言ってもよ、アレクシス!」


 イバンはアレクシスの言葉とは言え迫りくる高波を見ると身体が勝手に動きそうになる。


「みんな! アレクシスの言葉を信じるんだ!」


 誰よりもアレクシスを信じるカルロスは信念をもって立ち止まる。


「ちくしょう、大将が言うなら! 従うしかねえよな!」

「お兄様! 僕もアレクシスお姉さまを信じます!」

「アレクシス、頼んだぞ。拙の代わりにアルフォンス様の身を守ってくれ」


 四人は覚悟と信頼をもって立ち止まる。

 彼らが元居た場所に高波は押し寄せ、瞬く間に飲み込んだ。

 波が引いた時に彼らの姿はなかった。

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