第63話 傷を負いながらも走るアレクシス嬢
力勝負が決した広場。
熱戦が嘘のように静まり返っていた。
広場の真ん中には塔部隊が積み重なり山が出来上がっていた。
「や、やったのか……」
ウナイ隊長は山の上でうつぶせに倒れ込んでいた。
周りを見てもアレクシスはいない。最後に見た彼女の姿は波の下に沈む瞬間だった。
勝利を確信した。
「や、やったぞー! 我々は勇敢にもヘラクレスと堂々と正面から力勝負をし、これに見事勝利し、奇跡を起こしたー!」
山のてっぺんでガッツポーズをするウナイ隊長。
足元がぐらりと揺らぐも鍛えた体幹で踏みとどまる。
「聞けい諸君! 最も伝統が古く、最も勇敢であり、最も誉れの高い我々はヘラクレスを打ち倒した! 陛下を守り抜いた我々こそが真の英雄なのだ!!」
今度はぐらりと根元から揺らぐ。まるで噴火の前兆だが山頂火口付近のウナイ隊長は気にしていない。
「よーし今夜は焼き肉に酒飲み放題だ! 遠慮するな、全て俺の奢りとする! ヘラクレス打倒記念だ!」
次は振動と一緒に足元から謎の声が聞こえる、
「……れが……」
さすがのウナイ隊長も気にはする。
「うん、なんだ? まるで女性の声のようだったが」
足元の大盾をめくると穴を発見する。すると人間の山には穴が空いていた。
声はそこから聞こえた。
「だれが……ですって」
「まさか、その声、ヘラクレスか!?」
山の下の声が届くなら山の上の声も届く。
「誰が!!! ヘラクレスですかあああああああ!!!!」
塔部隊の山は大噴火する。火こそは吹かなかったものの屈強な男たちは火山灰のように空を舞い上がった。
そして再び人間の山に戻る。今度はより複雑に絡まって身動きが取れなくなった。
今度はウナイ隊長が一番下の潰される位置に収まる。
「これが……ヘラクレスの力……いやアレクシスの実力か」
「ようやく訂正する気になりましたのね。遅いくらいですわ。まったくもう。それでは御機嫌よう」
アレクシスはスカートを翻して先に進む。
「待て、逆賊アレクシス!! 我々はまだ負けていない!! 誰が通過を許可した、ここで戦え!!」
ウナイ隊長は倒れながらも洗脳されながらも責務を全うしようとしていた。
アレクシスは入り口を通ると左手に痛みを感じた。
「これは……血ですわね」
左手の甲に擦り傷が出来ていた。
歓迎会から三日。激戦を繰り返してきたがこれまで出血するほどの傷はなかった。
魔法を封じられた万全の体制ではないとはいえ初めての出血だった。
「お見事ですわ、さすがは誉れ高き塔部隊。ですがあなた方をねじ伏せてでもお会いしたい人がいるのです」
白いハンカチを手に巻いて止血する。
「カルロス様……私に力をくださいまし」
このハンカチはかつてカルロスがアレクシスに贈った品だ。肌身離さず手元に置いている。
覚悟を新たに大聖堂への奥へと走る。
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