第52話 本性を現したウーゴと対決するアレクシス嬢

「お恥ずかしいところをお見せしまたわ……二人とも本当に心が広いですわ……まるで海と空を足して二で割らないくらい広いですわ……」

「大げさだなぁ、アレクシス姉さま……」

「こんな女でよかったのか、カルロス……」


 三人はロデオ城を出ようとしていた。


「カルメン。約束は忘れてませんよね」

「ああ、拙の働いた悪事と一緒にウーゴの悪事も洗いざらい話すつもりだ。奴はアルフォンス様が若いのをいいことにだいぶ好き勝手してたからな」

「そういえばウーゴはどこにいるの?」

「あれ、アルフォンス様。一緒にいなかったのですか? 拙はアルフォンス様が城に近づかないように頼んでいたはずなのですが」


 三人は開いていたはずの玄関の扉の前で立ち止まる。


「細かいことは後ですわ! さあてこんな魔減石がたくさんの城とはおさらばしてシャバの空気を吸いますわよ!」


 勢いよく扉を開けようとするも光る壁に阻まれる。


「あいたああああああああ!!!??? 突き指しましてよ!!!??」


 カルメンは異常を察知し、光の壁に触れる。


「これは幽閉魔法!? そんな拙はとっくに解除したはず!?」


 そしてどこからともなく声が聞こえる。


「やあ! やあ! なかなかの見世物だったよ! 大人の感性を持つ私も少しばかりウルっと来てしまいましたな、無論フラメンコには劣るがな」

「その声はウーゴか!? 貴様、何のつもりだ!?」


 ずしり、ずしりと象のような重厚な足音と共に城が振動する。


「私はずっと待っていたのだよ、この時を……」


 そして彼は姿を現す。


「なんだ、その姿は……」

「これかい? これは君らを消すための粘土人形ゴーレムさ」


 それはゴーレムにしては造形が定まっていない。まだ焼きを入れていないパン生地を人の形に整えたようだった。

 見た目はファンシーだが大人二人分の高さと巨体。脅威には違いなかった。


「声が中から聞こえる……つまり中でそれを操っているということか。お前の魔力の漏れも感じる」

「うーん、有能! さすがは目が良いね、君は。ここで消すのがもったいないくらいだ」

「ほざけ」


 カルメンは拳銃を抜き、ウーゴの声がする胴体部分に弾丸を撃ち込んだ。

 しかし弾丸はゴーレムの身体を突き抜けることはなかった。弾力のある生地に阻まれ、皮膚の上で推進力を失い、ぽろりと地面に落ちて跳ねる。 


「なに、弾丸が効かないだと!?」

「当然だろう!? 君とアルフォンスを消すためと言っただろう!? 弾丸対策はしているに決まっているだろう!」

「ちぃっ!」


 今度は威力の強いライフル銃で胴体部分に撃ち込む。


「おっと、それはちょっと怖いかな」


 今度は両腕で胴体部分を隠す。腕に大きな穴が空くもやはり貫くことはなかった。


「ふははは! 素晴らしい!! 大金を使った甲斐があった!」

「これは……少しまずいか」


 拳銃もライフル銃も通用しない。おまけにアレクシスとの戦いで魔力も弾丸も底を突こうとしている。

 圧倒的に分が悪い。それでもカルメンには自分の命を犠牲にしてでも守るものがある。


「アレクシス、頼みがある。拙がライフル銃の二発で幽閉魔法にヒビを開ける。そこでお前の馬鹿力でなんとかこじ開けてアルフォンス様と逃げてほしい」

「あら、そんな隙をあのユーゴが許すかしら」

「時間は拙が作る。例えこの命を落としてでも……アルフォンス様を守り切るつもりだ」


 カルメンの覚悟は立派だったが認められる者はいない。


「そんなだめだよカルメン! 君も一緒に逃げないと!」

「いいえ、なりません。拙はアルフォンス様の護衛です。あなたの命を最優先にさせていただきます。だから、だから、どうか……」


 覚悟を決めて突貫する直前、彼女の前にふらりと誰か立って背中を見せる。


「燃えませんわ……誰かを犠牲にして逃げようなんて……淑女のすることではありませんわ!」


 アレクシスが前に出た。踵で小気味良い音を鳴らして。

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