第42話 エルメスの秘密兵器とアレクシス嬢
「あっけないものだな、ヘラクレス。いろいろと手札を用意したがもう決着か」
カルメンはシリンダーに手を回し、弾丸を装填する。
もしかしたら息があるかもしれない。
警戒していた通りにアレクシスの身体はぴくりと動く。
「……いっ……すわ……」
「……やはりまだ生きていたか。今すぐトドメを」
トドメを刺そうとしたが、もう遅い。
「いってええええですわああああああああああああ!!!」
「何!!??」
アレクシスの身体は起き上がったかと思うと宙を飛ぶ。
カルメンは狙いを定めて六発を早撃ちするがいずれも外れてしまう。
「銃弾! なんて威力なんでしょう! 弓の比ではありませんわー! 激痛で気が遠のいてしまいましたわ!!」
アレクシスは普通に立ち上がる。それどころか、
「無傷……だと!? 血も流れていない!!?」
「さすがに無傷では済みませんわ。弾丸が的中した箇所はもれなく骨折致しました。治癒魔法ですぐに治しましたがまだ痛みが残っていますわ」
「骨折!!? 骨折程度で済むはずがない!! 貴様、本当に人間か!!?」
「失敬ですわね、当然人間に決まってますわよ。まあ当然? 生身で受けていましたら? 死んでいたでしょうね? そうならなかったのはこれのおかげでしょうか」
アレクシスはひらりと身体を回してフラメンコドレスのスカートを膨らませる。
「まさかそのドレス、防弾魔法が施されているのか!?」
「おーっほっほ! どうやらそうみたいですわね! 九死に一生を得ましたわー! エルメスさま、グッジョブですわよー!」
気が利いて何よりなのだが、
(あの胡散臭い顔のお方、どこまで見えてたのでしょう……カルメンが怪しいと知りつつも防弾加工のドレスを用意して、それを私に渡すなんて……)
そして気が利いているようで、
「ふん、それならはだけた胸元や背中、顔を狙えばいいことだ」
フラメンコドレスにはわかりやすい弱点があった。はだけた部分が多い。
「ですわよねー……もう! サポートが徹底してませんわよ、あの商人!」
カルメンではなく壁を殴るアレクシス。狭い城内では分が悪いと判断し、脱出を図ったが、
「いだだだだ! なんですの、この壁!? 鉄よりも硬いですわー!」
光る壁は強固で破壊できなかった。
「無駄だ、幽閉魔法は決して破れない。ウーゴから一時的に権限を借りた身だが強度に変わりはない」
「どうやら幽閉魔法のリソースは個人ではなく城自体にあるみたいですわ。殴り続けても壊れそうにありませんわね」
「そうだ、どのみちお前に逃げ場はない。というか、なんでいまさら壁を殴った?」
「たった今、イケメンのアーホ三兄弟がフラメンコを踊ってますの。見に行かないと損ですわ」
「……は?」
「イケメンがフラメンコを踊っていますのよ!? それも三人も!!」
パン、パン、パン、パン、パン、パン!
「ちょーっと!? 会話ぶった切って弾丸ぷっぱなさないでくださいまし!?」
「拙としたことが忘れていた。貴様はイケメンを見ると魔力を回復する噂があった。もしや窓から覗いて魔力補給をしようとしたのではないか?」
「ぎ、ギクー!!?」
「その反応はブラフかもしれないが念のため、窓には近づけないようにしよう」
カルメンは戦闘を知り尽くした軍人。一つ一つ丹念に相手の勝機を潰していく。
弱者としか相手にしてこなかった蛙と盗賊と訳が違う。
「さすがは元親衛隊黒鷲部隊副隊長……抜け目がありませんわね……」
アレクシスはじわりと額に汗を浮かべる。頭脳明晰な彼女でも直接勝負での勝機を未だに見いだせない。
「そうだ、抜け目がない。ここは拙の用意した
おもむろにカルメンは廊下に立てられた背丈ほどある花瓶の側に立った。
「そうでしょうか? この秘密兵器のドレスと拳銃で五分五分といったところではないでしょうか? それに弾丸にも限りはあるでしょうに」
カルメンの拳銃ではアレクシスのドレスを撃ち抜けない。そして弾丸にも限りがある。
そういう計算ならまだ勝利を見込めるが、
「言ったはずだ、ここは拙の用意した
カルメンはそう言って花瓶を左手で殴って割る。
すると中から──否、花瓶の影から新たな武器を取り出した。
その武器は拳銃の形をしているが銃身が何倍にも長い。
「ライフル銃だ。長い銃身にライフリングと呼ばれる螺旋状の溝が掘られている。拳銃とは比べ物にならない威力を発揮する。一つ弱点といえば装填に時間がかかることだが……拙の現影魔法があればそれも克服する」
「ふう、なるほど、解説ありがとうございます……」
アレクシスは深呼吸した後に、
「エルメスーーーー!!! あなたが用意した秘密兵器、もう役立たずになりましてよおおおおお!!!!」
背中を見せて逃げ出した。
あまりにも分が悪い。
ひとまず逃げに徹する。
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