第8話 おっさん、冒険者ギルドに向かう
冒険者ギルド。
その歴史は下手な国よりも深く、それでいて濃いとまで言われている。
理由は単純明快。
始まりの冒険家にして、世界を救った勇者ことカエサルが誕生し、その生涯を賭して冒険者ギルドを作ったのが今から千年以上前のことだから。
つまり、冒険者ギルドは五二千年も昔から存在する超古代の組織なのだ。
そりゃあ、歴史も深く濃くなりますよねと。
「偉大な冒険家カエサルは、僕や坂橋先生のような異世界人だったとも言われていますね。流石に記録が古すぎて、事実かどうか分からないみたいですが」
「記録に名前が残ってるだけでも凄いですね」
まあ、言いたいことは分かる。
普通は戦争とか、そういうもので大昔の記録っていうのは失われるものだしね。
でもここは異世界。
人類以上の脅威が多々ある世界なので、人同士の争いはあまり起こらないのだ。
だから意外と古い記録も残っている。まったく争いが無いわけではないので、失伝してしまった記録も少なからずあるだろうけどね。
「さて、ここがアトランティス王国の冒険者ギルド王都支部ですか」
僕が足を止めたのは、王都でもお城に次いで二番目に目立つ建物。
やたらと人の出入りが激しく、活気で満ちているようだった。
「意外と大きいですね」
「一度目の世界で来たことあるんじゃないんですか?」
「ここは初めてですよ。そもそもアトランティス王国という国自体、僕がいた頃には無かった国ですし」
しかし、冒険者ギルドはどこのものでも大してルールは変わらない。
一つ問題があるとすれば……。
「僕の冒険者プレートが有効なのかどうか、分からないんですよねぇ」
「冒険者プレート?」
「冒険者の階級を表す金属片です。ちなみに僕は最上位のアダマンタイト級だったりします」
ここまで上げるのに苦労したものだ。
ドラゴン退治や吸血鬼退治、邪精霊の討伐やら色々と頑張った。
あれからこの世界では四百年も経っているというし、この冒険者プレートが意味を失くしていても仕方がないだろう。
一応、受付の人に確認してみようとは思うが。
俺は冒険者ギルドの建物に入り、中の様子を伺う。
ギルド内に酒場が併設されているらしく、そこには幾人もの冒険者が酒を呷っていた。
時間帯は夜。
クエストを終わらせて、そのまま仲間たちと酒を飲んでいるのだろう。
しかし、僕と坂橋先生が足を一歩踏み入れると静かになる。
「おお、この空気。懐かしいですねぇ」
「な、なんだか、凄く見られていませんか?」
「値踏みされてるんですよ。あんまりおどおどしてると鴨扱いされますから、堂々としていてください」
「は、はい」
冒険者は実力主義な節がある。
高ランク冒険者には礼節が求められるが、それ以外の冒険者は所詮その日暮らしの荒くれ者だ。
実力主義で上下関係をハッキリさせておくことで、無用な諍いを避けることができる。
まあ、問題が全くないわけではない。
しかし、何らかのトラブルを起こした冒険者は冒険者ギルドがしっかりと罰則を与えるようになっている。
ちゃんと組織として成立しているってわけだ。
「すみません、ちょっと良いですかね?」
受付の女性に声をかける。
僕よりも歳下、坂橋先生よりも少し年上に見える綺麗な女性だった。
「冒険者ギルドへようこそ。はい、本日はどのようなご用件で?」
「実は冒険者業を再開したくて。あ、こっちの彼女は初めてです」
「承知しました。新規登録と再登録ですね。再登録の場合、冒険者プレートを提示していただくことでそのランクから再スタートすることができますが、如何致しましょう?」
「え、本当ですか? ラッキー」
僕は喜々として、異空間に収納しておいた冒険者プレートを受付嬢に見せた。
すると、それを見た受付嬢の目が鋭くなる。
「失礼ですが、これをどちらで?」
「え? どちらも何も、僕のものですが」
「……はあ。騙りもここまで来ると清々しいわね」
おっと?
「良いですか? 冒険者には全部で十のランクがあります。下から順にストーン、カッパー、アイアン、クリスタル、シルバー、ゴールド、プラチナ、ミスリル、オリハルコン、そして最後にアダマンタイト」
「ええと、知っています」
「知っているなら騙りはやめるべきですね。アダマンタイト級冒険者は、冒険者ギルド発足以来十人にも満たないんです。うち六人は今も存命で、容姿は知れ渡っています」
「そうですか」
「貴方はそのどれにも該当せず、四人は既に亡くなって、新しいアダマンタイト級が誕生したなど聞いたこともない。であれば貴方は〝騙り〟でしょう」
騙り。
ランクを偽っている冒険者のことだが、これと言って重い罰則は無い。
だって分不相応なクエストを受けて死ぬのは本人だからね。
まあ、当然良い顔をされる行いではないため、やる奴は滅多にいない。
そうか、僕は騙りだと思われちゃったのか……。
それにしても、僕が地球に帰った後は死亡扱いになってるのか。
そこにビックリ仰天だ。
「まあ、要するに。貴方は本物のフリをして高ランク冒険者になろうとしている偽物です。……まあ、流石にアダマンタイト級の騙りは初めてですが。そういうことですので、お引取りください」
うーん、これは何を言っても信じてもらえなさそうだなあ。
というか、僕が冒険者やってた頃はアダマンタイト級って八人しかいなかったし、四百年で二人も出たのか。
凄いなあ。っと、言ってる場合じゃない。
「分かりました。なら僕も新規登録で構いません。お願いできますか?」
「え?」
「え?」
「あ、えっと、すみません。こういう場合、大抵は冒険者登録せずに捨て台詞を言いながら逃げ出す場合が多いので」
「あー、そうなんですねぇ」
まあ、僕には関係ない。
行方が分からない後藤くんと八神さんの居場所を探るなら、冒険者でいる方が何かと都合が良い。
冒険者プレートは身分証の代わりにもなるし、なっておいて損は無い。
ましてや後藤くんと八神さんはすぐに名を上げるはず。
同じ冒険者なら、接触も難しくない。
「えーと、それではこちらの用紙に必要事項を――」
「ちょいと待ちな、アリア」
「え、あ、ボガードさん?」
受付嬢が取り出した紙を横から奪い取り、ぐしゃぐしゃに丸める大男の冒険者が一人。
アリアというのは受付嬢の名前だろう。
そして、この大男の名前はボガードと言うらしい。
僕を鋭く睨みつけていて苛立ち、ともすれば怒ってさえいそうな雰囲気だ。
「オレはプラチナ級冒険者のボガードだ」
「はあ、そうですか。僕は――」
「てめぇの名前なんざ興味もねぇ。てめぇ、よりによってアダマンタイトを騙りやがったな。話は聞いてたから誤魔化しても無駄だぞ」
「騙ったつもりはないんですがねぇ」
良くない空気だ。
僕は残り少ない日本の煙草を取り出し、口に咥えて火をつける。
「すぅー、はぁー。……じゃあ、どうします? やります?」
「話が早いじゃねーか。冒険者にとって、アダマンタイトは誰もが目指す頂点だ。それを騙る輩は許せねぇ。表に出ろ」
「それは構いませんが、ルールはどのように?」
「男なら拳で語らんか!!」
「ステゴロ、と。まあ、苦手ですが、少し頑張りますか」
まあ、頑張るのは手加減だが。
「ちょ、え、柊さん、何を言ってるんですか!!」
「ご心配なく」
坂橋先生が僕の服の裾を引っ張って耳打ちしてくるが、今回ばかりは仕方がない。
騙りだと思われてしまった以上、このボガードという冒険者は納得しない。
見たところ三十代前半でプラチナ級ということは、かなり有名な冒険者なのだろう。
その彼に睨まれたままでは、おちおち冒険者活動などできるはずもない。
ましてや、彼の目にはアダマンタイト級冒険者への憧れのようなものを感じる。
逆にここで彼を納得させるだけの実力を証明すれば、今後の冒険者活動もしやすくなるだろう。多分。
僕はボガードくんと一緒に冒険者ギルドの表に出た。
――――――――――――――――――――――
あとがき
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