第4話 おっさん、王様を脅す
「も、元勇者、だと?」
王様が声を震わせながら、オウムのように僕の言葉を繰り返す。
僕は頷いた。
「ええ。まあ、僕の場合は女神に召喚されたんですがね。高校の時にクラスごと。邪神を倒すよう頼まれまして」
「邪神、だと? ば、馬鹿なことを言うな!! 邪神大戦は四百年前のことなのだぞ!!」
「あー、多分地球とこっちの時間の流れが違うんじゃないですか? というか、こっちだと四百年も経ってるんですねぇ。知り合いは軒並み死んでそうだなあ。……あっ、エルフなら生きてるか」
ドワーフも当時子供だった人ならギリギリ生きていてもおかしくはないはずだ。
っと、いかんいかん。今はそんなことを考えてる場合じゃない。
「ひ、柊さん? それは、どういう……?」
「実は僕が異世界召喚二度目っていう話です」
「……そっか。だからあんなに落ち着いてたんですね。納得しました」
僕の後ろで得心の行った顔を見せる坂橋先生。
「さて、王様。最初に一つだけ言っておきますが、この場ですべての決定権を持っているのは僕です。下手なこと言ったらボッコボコにしますからね?」
「ひっ!! な、何が望みだ!!」
「おや、話が早い。単純な話です。僕たちには今後一切関わらないでください。それと、生徒たちをこちらに引き渡してもらいます」
「っ、そ、それは……」
王様が言葉を詰まらせるが、途端に何かを思いついてニヤニヤと笑った。
「こ、断る!! 余に手を出せば、勇者たちがどうなっても知らんぞ!!」
「人質ですか? ……ふむ」
少し考える。
この場から生徒たちを救出する手段は、ぶっちゃけあるっちゃある。
しかし、冷静に考えてみたら、ここで生徒を連れ出したとして全員の面倒を見切れるかと聞かれたら、素直には頷けない。
……そうだな。色々と準備が整うまで、王国に彼らを預けておくか。
この国にとって生徒たちは代えの利かない貴重な戦力だ。
むざむざ死なせるような真似はしないだろうし。
「分かりました。ではこうしましょう。僕たちはここから今すぐ出て行きます。だから二度と干渉しないでください」
僕がそう言うと、王様は露骨に安堵した様子を見せた。
しかし、ここで坂橋先生が叫ぶ。
「そ、そんな!! 生徒たちはどうなるんですか!!」
「坂橋先生」
僕は王様に聞こえないように話す。
「僕に考えがあるんです。魔王なんか倒さなくても元の世界に帰る方法を、僕は知っています」
「……え?」
「ただ、何分長大な時間がかかる。早くて半年、長いと一年。それまでこの国に生徒たちを預けておくだけですよ」
「で、でも、その間に生徒たちに何かあったら!!」
「彼らは勇者です。その力は絶大だ。反旗を翻されたら終わりってくらいの。王国にとっては爆弾を抱えるようなものですが、彼らはその爆弾を上手く使いたいはず。わざわざ傷つけるような真似はしませんよ」
「ほ、本当、ですか?」
「はい」
まあ、正直なところ、絶対に無いとは言えない。
仮にこの王様が私利私欲で動くような人間だったなら不味いだろう。
しかし、王様は言った。
王として国を豊かにしなければならない、と。
やってることは脅迫やら殺人の指示やら最低なものだが、国の利益を考えるなら勇者を殺すような真似は絶対にしないはず。
坂橋先生が何をどう言っても生徒たちの戦争参戦を許可しないと理解し、即座に生徒たちから引き離そうと考えたのも人道的な面をガン無視すれば悪い判断ではない。
この王様は、賢王ではないが、同時に愚王でもなさそうだ。
問題は無い、はず。一応、保険はかけておこう。
「というわけで、僕らはこれで」
「ま、待て!! 余が貴様らを逃がすとでも思っているのか!!」
「……ああ、生徒たちを人質に取れば僕に命令できるとでも思っちゃいました?」
随分と、舐められたものだ。
「その気になれば生徒たちを連れ出せるんですよ、僕は」
「な、何だと?」
「ただやらないだけです。この国に預けるだけですよ。それともし、彼らを勝手に戦争へ駆り出そうものなら……」
僕はにっこり笑顔で言う。
「この国を滅ぼしますよ? こんな風に」
右手を掲げて、僕はある魔法を発動した。
空気中に漂う魔力を収束させ、僕の魔力も混ぜて放つ高威力の魔法。
かつて邪神を滅ぼした、救世の光。
「【
クラスメイトとああでもないこうでもないと言い合って作った、邪神を滅ぼす光の矢。
それはお城の天井を蒸発させ、大気を震わせながら空の彼方へと消えて行く。
味方の士気を極限まで高め、敵対者を絶望させる威力の魔法だ。
「僕はこれを、毎分三百発くらい撃てます」
「!?」
地球で言うところのミサイルくらいの威力はあると思うだが、これは邪神を戦いの中で牽制するために作った小手調べ用の魔法だ。
マシンガンみたいに撃ててようやくの代物である。
おっと、全然一条じゃないじゃん、とか、神を滅ぼせないのかよ、とかの質問はおっさん受け付けておりません。
仕方ないじゃん。昔のクラスメイトと悪ノリで作った魔法なんだから。
まだ当時厨二病が治ってなかったんだよ、うん。
でも見た目は派手だし、脅しにはもってこいなんだよね、この魔法。
「というわけで、僕らはこれで失礼しますね。坂橋先生、ここはトンズラしましょう」
「え、あ、えっと、はい」
僕は坂橋先生の腕を掴む。そして、ある魔法を発動し、王城を後にした。
「え? え? ど、どこですか、ここ!? さっきまでお城にいたのに!!」
「転移魔法です。ドラ◯エで言うルー◯……いや、あれは飛翔魔法かな? まあ、とにかく瞬間移動したんです」
「しゅ、瞬間移動……」
坂橋先生が目をぱちくりさせる。
そして、キョロキョロと辺りの様子を確認するように見回した。
「あの、ここは? 森、ですよね」
坂橋先生の言う通り、ここは森だ。
人の手が加わっておらず、至るところから何らかの生物の唸り声が聞こえてくる。
視界も悪く、木々が鬱蒼としていて長居したい場所ではないだろう。
「ここは僕が一度目の異世界生活で拠点にしていた森でして。たしかこっちに……」
「あ、待ってください!!」
森の中を記憶通りに進むと、やがて小さな小屋が見えてきた。
「おおー、保存魔法って四百年経ってても効果あるんですねぇ。びっくり仰天ですよ」
「あの小屋は?」
「僕の隠れ家です。逃亡生活してる時に作ったもので、今後はここで寝泊まりすることになります」
「逃亡生活? 何かやったんですか?」
……おっと。
「今のは忘れてください」
「す、凄く気になるんですが」
「……そうですねぇ。お互いに信頼関係を築けてからお話します」
「あ、はい。分かりました。……というか、寝泊まりって……。ま、まさか同じ屋根の下で眠るつもりですか!?」
「はは、流石にそこまで無神経じゃないですよ」
ぶっちゃけそのシチュエーションに憧れはあるけどね。
でもまあ、わざわざ嫌われるような真似をする必要はどこにも無い。
「僕はこのテントを立てて休みます。坂橋先生は遠慮なく小屋を使ってください」
「ちょ、そのテントどこにあったんですか!?」
「これは収納魔法と言って、異空間に物を出し入れできるんです。ドラちゃんの四次◯ポケットみたいなものですよ」
「あ、あー、なるほど? なんか驚きの連続で分かんないです……」
「ひとまず細かいことは明日にしましょう。今日はもうじき日が沈みますし。小屋の中にあるシャワーは好きに使って良いですよ」
そう言うと、坂橋先生はキラキラと目を輝かせた。
女の子ってお風呂好きだよねぇ。まあ、僕も好きですが。
――――――――――――――――――――――
あとがき
坂橋ズ好きなもの
お風呂。甘いもの。マヨネーズ。
「おっさん強い」「先生の入浴シーンはないのか?」「おっさんの入浴シーンは?」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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