昔語り 儚く淡い想い(物語の小さな欠片)

 ラジャクとカルシャークがその少女に会ったのは少し前、カルシャークが十三歳のときだった。ふたりが聖山にやってきてから、八年後のことである。

 少女との出会いは、カルシャークのその後の人生を大きく変えることとなった。



 ラジャクは、カルシャークが天石だけではなく装飾品を扱っているところを初めて見た。細めの銀色の指輪、そこに嵌められた天石にカルシャークが慎重に魔法をこめている。

 様々な色の淡い光がふんわりと指先に絡んで、石に吸いこまれてゆく様子はいつ見ても美しい。

「それは何に使うんだ?」

 好奇心を抑えられず、ラジャクは尋ねた。

 カルシャークの作る魔法石が聖山の外にもたらされることは殆どない。ここで暮らす者しか使わないため、カルシャークはこれまで装飾品に加工する手間をかけたことがなかった。

 聖山は世界から消えてゆく魔力を見守るためだけに存続している。魔法は創られ続けているが、それは世界に残された最後の輝きのようなものだ。争いのもとにならないように、そして最後までその行く末を見届けるために、ひっそりと受け継がれている。

 作業を終えたカルシャークは手のひらに乗せた指輪を満足げにみつめた。

「この指輪には癒しの効果をもつ天石を三つ嵌めてある。砕けてしまった壊れかけの小粒の石だから、それぞれ使えるのは一回きりなんだけどね」

 そう言うと、今度は左手の指で掴んだ天石を軽く左右に傾けてみせる。

「こっちの大きめの石には薬草の効果を高められる魔法をこめてみたんだ」

 説明を受けたラジャクは、カルシャークが何故そのようなものを突然創りだしたのか思い当たった。ここ最近、心ここにあらずという感じで何かを考えこんでいた様子だったのも、そのせいだったのかと気づく。


 少し前、いつものようにこっそり遊びに出かけたラジャクを追って、珍しくカルシャークまでもが聖山の麓まで出てきたことがある。そのとき、二人はとある兄妹と出会った。

 病弱だという妹とその兄は、聖山の麓に生えている薬草を採りに来ていたのだった。カルシャークはあの時のことをずっと気にしていたのだろう。


「あの子、聖山の麓に自生している薬草だけ効果があるような気がすると言ってただろう? ここは天人の結界があるから、もしかすると枯渇したと言われている魔力が微かに残っていても不思議はないのかもしれないと思って。そうしたら僕の魔法で薬草の効果を上げることが出来れば、彼女の病を少しは癒すことが出来るのかもしれない」

「でも、その大きめの石も十回くらいしか使えないよな」

「そうだね。だから完全に病を治すのは無理かもしれない」

 それでも、どうにかして彼女のことを助けてあげたい――そんな思いがカルシャークの表情にあふれている。

 ラジャクは、そんな兄の言葉の響きや揺れ動く瞳の奥に、なにか大切なものを見た気がした。


 カルシャークは作り終えた指輪を手のひらに乗せ、そっと目を閉じる。

「……間に合うと、いいな」

 その声は誰に向けたものでもなかった。

 けれど、ラジャクにはそれがカルシャークの胸の奥に秘めた小さな祈りのように聞こえた。

 せめて少しでも、彼女の日々が優しく穏やかに流れてゆきますように、と……

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