第2話 ガチ恋距離は0cm






 ー #130年後 #アパートの1室 #女性視点 ー




 「・・・・・・なにこれ?」



 随分と長い夢だった。



 それに何より汗びっしょりでなんか臭い。



 臨場感のある夢だったけど私そんな感情移入するタイプじゃないし。



 

 「げっ!もうお昼だし。


 朝場見逃したじゃん」



 世の中は便利になってテレワークで自宅に居ながら

仕事ができるようになっていた。



 当然パソコンで仕事はするけど、別端末のスマホで ” 副業 ” を

隠れてやるのができる大人。



 私の場合株でひと山当ててそのまま退職。



 朝起きる時間を会社に合わせなくていい生活は楽だから。



 でも朝9時から開くオンライン株取引所に合わせるため

実は会社を辞めても夜更かしできない。



 いや、もう昼だからお金儲けの時間が減ったんだけどね。




☆☆☆




 気分を切り替えて昼場に全力を出すため、

衣服を洗濯機に投げてシャワーを・・・・・・・・



 なんか夢であった赤毛の子が言いそうなことが頭をよぎった。



 後で洗濯ネット買ってくるかな。





 ー #20分後 ー




 シャワーを浴びたし洗濯機を・・・・・・・故障か。



 大学入って新しく買ったから8年か9年、

そろそろかと思っていたけどご臨終。



 ・・・・・・いや出来すぎじゃない?



 来世は洗濯機になりたいとか言ってた子が夢に出てきて

その日に洗濯機が壊れるって。



 最後のチカラを振り絞って私に思い出を伝えたかったのかな?




 ・・・・・・修理だすか。





 ☆☆☆




 ー #翌日 ー




 私の部屋に緑髪のメッシュを入れた女性がやってきた。



 優秀だけれどかなりの変わり者だから

それでいいならとの事。



 コールセンターのマニュアルに書かれるほどの変人が目の前にいる。



 まぁ、こんなの慣れっこだし・・・・・・いや慣れてない、

あー、今日もダメだ。


 夢と現実が混ざってごっちゃになってる。




 「これなら新しい洗濯機買ったほうがいいですね。


 この子ももうボロボロですし。


 でも修理自体はできますよ?


 正直なんで昨日まで動いていたのか分からないんです」




 プロがそれを言ったらおしまいじゃん?


 といいつつ彼女は手を動かしている、

それも尋常じゃない速さで。




 「金額はどうでもいいです、ただ変な夢を見て」




 「変な夢?あー、私も見ました。


 赤色の髪の少女が私の事を叱りつける夢。


 そして妹を名乗る彼女は無数の洗濯好きで」くどくど




 変人の理由が分かった、初対面でオカルトの話をしてくる厄介な人だ。


 

 出会った瞬間マブダチだぜ、ウェーイみたいのじゃなくて

好きなことを一方的いっぽうてきに早口で話すタイプ。



 ・・・・・・あれ?妹?


 もしかしてこの人赤毛の子を作った機械部じゃないかな?




 「それでですね、彼女は私に」くどくど



 「ええと、単刀直入に言うけど ” 治りそう? ” 」



 「中身を総とっかえすればいけます。


 というかこんな面倒な仕事私以外引き受けません!!!!」



 やっぱ新しいの買おうかな?この人のテンション嫌い。




 「いやぁ最近増えてるんですよ、洗濯機の妖精さんの話」



 妖精って言うにはツンデレ成分多めだった気がする。



 「特に意味もなく夢に現れて

洗濯物や洗剤のアドバイスをして帰っていく。


 よく分からない妖精、でも悪い人じゃないけどね」



 「本当によく分からないし」ドン引き



 「ただその妖精さんが現れた人の洗濯機は妙に調子がいいんですよ。


 私も夢のお告げを信じてカーテンを入れてぶん回したら

普段以上に部屋がいい匂いに包まれて」




 そろそろ怪しげな開運グッズ持ち出してきそうだよ、この人。



 「せっかくいい大学出たのにデスクワークじゃないんですよ、

でもまぁ上司は優しいです。


 仕事終わりに ” かつ丼 ” 奢ってくれますから」



 「嘘!!!!うらやましっ!!!!!」




 理想の上司ナンバーワンじゃん。



 「んんー、調整完了。


 代金はコンビニ払いか直接・・・・・・クレカですか」しゅん



 露骨に嫌な顔されても困るんだけど、手数料で利益が減るの知ってるタチか。



 「あー、コンビニ払いにするから、

ちょうど洗濯ネット買おうと外出する予定だったし」



 「そうですか!!!!!


 では時間のある時に私たちの会社の面談に来てください!!!!」



 「話が急展開過ぎるんだけど・・・・

それに私不労所得でご飯食べてるし、働くにしてもテレワーク以外はちょっと」



 「大丈夫だと思いますよ?

なんなら食事配達ナントカ・イーツでかつ丼届けると思いますし

上司も職場で堂々とFXやってます!!!!!」



 「じ、自由すぎじゃないかな」ドン引き



 いけない、私が押されてる。


 この人をデスクワークに採用しない理由が分かった、

底抜けの明るさで現場人間適正が高すぎる。



 流れを変えたいから私が話の主導権を握らないとね。




 「あー、私を引き込みたい理由を教えてもらえるかな?」



 「洗濯の妖精を見た人ってみんな何かしらの部門で成功した人なんですよ。


 その人たちを集めて雑談をしてもらって世界情勢で今何が必要かを判断して

上司が投資をする、そのための人材が欲しいんだって」




 世間から見たら20代で株で稼ぐこと前提の準早期退職セミ・アーリー・リタイア

出来る人は限られているから私も成功者の部類ってことかな、

本当は社会不適合すぎて社会人に嫌悪がさしただけだけど。



 「だから面接に来てください、かつ丼でますから!!!」



 「いや、かつ丼は魅力的だけどさ・・・・・」



 「何とボーナス支給日には ” うな丼 ” も支給されます!!」



 「そこはかつ丼じゃないんだ・・・・」



 いやうな丼も魅力的だけどさ、かつ丼推しが凄いのに急にうな丼が

来るのは反則だよね、ツッコミを入れざるを得ない。




 「分かりました!!!!洗剤を付けます!!!!」



 「もういい加減にッ!!警察・・・・・を・・・・」




 彼女が洗剤のふたを開けてすぐに私の鼻を刺激した。



 「警察だけはご勘弁を・・・・・ってなんで泣いてるんですか!


 もしかして洗剤合いませんでしたか?」





 いや、私にも分からないし。





 「この香りは洗濯の妖精さんが教えてくれた

彼女がこよなく愛した物です・・・・・・。


 ホワイトリリー、花言葉は純潔、無邪気」



 無邪気って・・・・まあ赤毛の子はそうだね。




 「すーはーすーはー・・・・・・。ごめん、落ち着いた。



 もしかして会社の人たちも妖精と会ってる?」



 これが赤毛の子のニオイ?


 いや夢の中ってのは曖昧だからさ、

イイ匂いを嗅いだ感覚はあっても、

それがどんなものか具体的には分からない。



 でもどこか、懐かしい感覚に襲われた。



 「んーそうですねぇ、私と上司以外は皆テレワークですので

面接受けに行ったほうが速いと思います。


 あっ私服OKですので」




 そうきたか、あくまで面接させるつもり。




「分かった。


 とりあえずいったん外出てくれるかな。



 その・・・・・洗濯機と話がしたくてさ・・・・」



 自分のことながら何言ってるんだろうね。




 「気のすむまで話してあげてください。


 きっと彼女も喜びますので」にっこり




 あれ?思っていたより反応が違う。


 いや彼女も妖精を信じるタイプだから

馬鹿にするようなことはしないと思っていたけど、あの笑顔は本物。



 ☆☆☆





 私は洗濯機の前にしゃがみ込んで目線?を合わせた。


 今は人払いもできている。




 「・・・・・・私はさ、紅さんを夢でしか知らないし、

ジエンドさんでもない。


 

 そのうえで聞いてほしいんだけど、

私はさ、大丈夫だから。


 うーん、生まれ変わりとかそういうのは信じないけどさ、

私は私でまた社会復帰しようと思う。



 独りで生きてきたけどさ、夢の中の2人はなんか楽しそうだった。



 だから彼女の代わりに言おうかな、





私が好きなのは紅先輩の選んだ洗剤じゃなくて、先輩のニオイなんだ」




 両手で洗濯機を持ち、

私は紅さんとの13cmルールを破った。



 12、11、10・・・・・・・・。



ガチ恋距離を越え0cmになった。 






 ☆☆☆



 「これでお互い未練はないでしょ?


 天国で待ってるジエンドさんに会いに行きなって。




 そうなると私が寂しいかな?


 長期休暇には遊びに来てよ、多分精神病んでるから私」





 かつ丼先輩のハイテンション・ウザ絡みと、

かつ丼上司に不安がないと言えば嘘になるかな。



 それでも・・・・・夢の中だけど

味方になってくれそうな人ができたことは

私にとっての心の支えとなるのだから。



 ー ガチ恋距離は13cm       完 ー




☆☆☆






 あとがき




 ジエンド 「私たちの最後のシーンでさ、

      紅先輩が注意しなければキスできてたよね?」



 紅    「ふん、とっさに俺を庇わなければキスできてただろうに」




 未来の女性 (夢の中でも、いちゃついてるし。


       でも悪くないかな、こういうのも)

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