短編集
@11f_allance
遥かなる青空の下で
「壮太ーまだー?」
開いた窓から新緑の風が吹き込む、七月第二日曜日の正午。二人しかいない生徒会室に美月の声が響く。
「早くしてもらわないと困るんだけどー?作業が全部そこで止まってるの!あんたのせいで卒アル委員の私まで休日出勤だし!」
「もうちょっと!あとちょっとだけ待って!」
「今更だけど、卒業アルバムのお楽しみ欄ってそんなにガチるものじゃないよ……?」
「いやーでもこういうのってしっかりしたほうがいいじゃん?」
凝り固まった思考をほぐすために窓の外に目を向ける。運動部も今日は練習が無いらしく、グラウンドには誰もいない。そんながらんとした茶色の大地を、青い空が覆っている。
夏の空。どこまでも透き通っていて、どこまでも続きそうで、終わりが無さそうで……少し、怖い。
「そもそもお楽しみ欄のテーマって何だった?私、だいぶ前に出したから忘れちゃった」
「将来の夢。……そういや美月はなんて書いたの?」
「私は獣医さん。小学校の時からずっと獣医さん」
「理由とかはあるの?」
「言葉の通じない生き物が伝えようとしてることを感じ取りたいから」
「そりゃあ、すごい"夢"だな。現実的なプランがない」
こいつから何か少しでもアイデアをもらおうとしたが、失敗に終わった。
「もうさっさと書いちゃいなさいよ。ほら早く早く」
いい加減待つのに飽きたようで、強引に終わらせようとしてくる。
「あー待てって。今考えるから」
「もう待てない!ほら、なにで迷ってるのか言ってみなさい」
「デスクワーク系の会社員か地方公務員」
「いやに地味だな!しかもそれ、同窓会で見返したときも絶対シケるし」
「うるせーよ。俺にはこれが妥協ラインだ」
「まずはその妥協って言葉辞めない?その言葉は自分で自分の未来を絞ってるのよ。妥協ライン以上になれない、と勝手に思い込んで、それ以上の成長を諦めてる」
「じゃあどうしろって言うんだよ。無謀は無能のすることだぞ」
「私思うの、無謀ってないんじゃないかって。誰がいつどこでどんな挑戦をしてもいい、どんなに高い壁でもそれは決して無謀ではない」
「人間は生身では飛べない」
「生身である必要はどこにあるの?何を使っても飛べれば十分じゃない?」
「……」
「ほら、あなたは何がしたいの?妥当とか無謀とか一旦ナシにして考えてみて」
『妥当とか無謀とか一旦ナシにして』。長らくしてこなかった考え方だな。
それこそ、小学校時代以降。思い返せば、小学生の時は俺にも夢があったな。中学校に入って現実を見て、すっぱり切り捨てた夢が。
「……小説家になりたい」
自由帳の隅に、心が躍る文字をただひたすら書き連ねていた小学生時代。しかし、中学に上がり周りのやつらの文才に触れていつしかそんなこともやめた。
そんな、妥協の末に捨てられた、文字通り"夢"。
「いいんじゃない?楽しそうじゃん。ほら、サッサと紙に書いちゃって」
暗記カードほどの大きさの白紙に鉛筆を滑らせる。かつて、6年前に感じたワクワクと同質のものを胸に宿しながら。
短編集 @11f_allance
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