割愛の最中
@rabbit090
第1話
「私いい加減飽きちゃった。」
「何が?」
「だからこうやって、君と生活していくことだよ。」
「…はあ?」
やっと
取れた休日の朝、眠い目をこすりながら起きて、お前と朝食を食べていただけなのに。
「何言ってんだよ?意味分からない。」
「分かってる、はずだよ。私がもう無理っていうの、随分前から知ってるじゃない。」
「知らねえよ。」
人って、感情のままに声を荒げて、でもその感情の温度と、中身は、一致などしていない。
僕は全身から冷や汗をかいて、ひいひい、と言っている(気分だった)。
困る。
それに尽きる。
だって今のご時世、一人になってみろよ。生きれるもんじゃねえよ、それはお前も分かってるのに、何で。
「ごめんね、急だったけど。君ならきっと大丈夫だよ。私も、平気。多分これが最善なんだ。」
可愛い顔なんかしてないのに、そうやって笑いかける姿が嫌いだった。
僕は、その顔を見るといくら疲れていたって、ノーと言えない。
がっくりとうなだれて、そして彼女が出て行った。
「離婚しました。」
言いたくなかったけれど、言わなくては。
「…そうか。」
そうだ、その通りだ。
この世界で成人した後、離婚するということは、ありえないはずだった。でも、ほんの少し前、僕の住むこの星は、外部の侵略者によって占拠されてしまった。
そのせいで、まともな生活など遅れない程、ぐちゃぐちゃに乱れてしまった人生だったけれど、でもあいにくじゃなく、侵略者はこの星を滅ぼすことではなく、残すことを選択した。
それは、良かった、と単純に思っていた。
でも、
「だったら、君たちはここにはいられないよな。」
「はい、お世話になりました。妻のことは妻が自分で致しますので。」
「そうか、頑張れよ…。」
僕の勤めている会社は、侵略者の手の中にある。というか、もう全ての企業がそうだった。だから、侵略者の世界で最も悪いことだとされている、夫婦関係の破綻、それをすれば絶対に、普通の企業では働けない。
「じゃあ、失礼します。」
ずっと勤めてきた会社だった、でも、僕はここを去ることにあまり未練を感じなかった。
多分、疲れていたから。
仕事と、家庭、そんなの両立できるかって、思ってたし、周りの視線を感じながら、ビルを出て、近くの店に入った。
僕は、その足で履歴書を手に持ち、そこへ足を踏み入れた。
「こんにちは、入っても大丈夫ですか?」
「いいよ。」
いいって、そうか、いいのか。
そう言われたから、僕は土足で立ち入った。
「働かせてください、これ、履歴書です。」
「いいよ、いいよ。」
いいのか、そうかいいのか。
僕は心の中でその言葉を何度もつぶやいて、笑ってみる。
おかしいのか、おかしくないのか、分からない。
でも、仕方ないじゃないか。
僕はここで、問答もできないような忙しい労働を、する羽目になる。
みんながみんな余裕をもって仕事ができる程、世界は甘くない。
だから、
「よろしくお願いします。」
「うん。」
と、言ってそのまま制服を着た。
「侵略されました。」
「…は?」
最初は、何の冗談を言っているのかと、思った。
ここ最近の新しい事実として、この星以外にも生命体、知的生命体がいるという話が持ち上がって、探索をしようってところだったはずなのに。
いつも見ているニュースで、アナウンサーがいつもより血相を変えてそのことを伝えていた。
なんか、エイプリルフール?
じゃ、なかった。
僕らは、彼らの支配下にある。
生きるも、死ぬも、全てを握られている。
だから言うことを聞くしかなかった。
でも、一定数、彼らですら面倒くさいと、その支配下からゆるく捨て置いている人間たちもいて、それがここで暮らす人だったのだ。
ここで生きている人はみんな、喋ることよりも、動くことを要求される。
僕は、黙々と働くことが嫌いだった。
でも、仕方が無い。
彼らの全てから、はみ出してしまった僕は、それを受け入れた。
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