第88話 初志貫徹、重ねて断つも
首を落としても平気ってことは、心臓をぶった斬ったとしても結果は大して変わらないと思われる。
なら急所は、毒を生み出し制御しているであろう器官。
そんで巨人の構造がスライムと一緒であるのなら——、
「やっぱ、そうだよな」
見つけた。
黒い毒液の中に浮かぶ赤黒い球体。
奴の肉体を構成する——核だ。
大きさはおおよそバスケットボールくらいか。
人間でいうところの丹田辺りに位置している。
今はまだ核が動く気配は無いが、あれだけの巨体だ。
体内で自由に流動させたとしてもおかしくはない。
——でも、弱点が分かれば十分だ。
「一撃で仕留める……!!」
狙いを定め、脇差を振り上げる。
全力の一太刀、放たれた斬撃は地面と水面を這い、巨人へと迫っていく。
しかし、巨人の腹部に到達し、斬撃が発生した瞬間だった。
「は!?」
斬撃を浴びた箇所が硬質化、俺の刃が奴の核に届くことはなかった。
「クソ、こんなのありかよ!!」
スライムよりもずっとタチが悪いじゃねえか!!
恐らくは、蛇島の術式の影響か。
確か奴の毒は固体に……それも強固なものに変えられたはず。
それこそ魔力で強化した剣を真っ向から受け止められるくらいに。
(マズいな……)
冷静に分析すると同時、サーっと背筋に悪寒が走る。
原理がどうであれ、俺の渾身の斬撃が防がれたのは確かな事実。
硬質化した部分を突破できなければ、あの巨人を倒せないことに他ならない。
だけど、今の一撃が脇差によるものだったとはいえ、手応えで分かる。
打刀の居合でぶった斬ったとしても、硬質化した部分を貫通して核に攻撃を届くことはない、と。
自覚した途端——心臓の鼓動が強くなる。
全身から冷や汗が流れ出す。
緊張と恐怖で呼吸が荒くなる。
俺には無理だ、そんな考えが脳裏を過る。
——落ち着け、思考を止めるな。
無謀な戦いなのは、最初から分かってたはずだろ。
どこまで行っても俺は弱者側の人間、力でどうにもならないのなら知恵と工夫を絞り出して対抗するしかない。
今までだってずっとそうしてきただろ。
「一発でダメなら……!!」
手数で攻めるまで。
単眼鏡をポーチに仕舞ってから打刀を抜き、刀身に魔力を籠める。
核の位置は把握した。
もう肉眼でも問題ない。
二刀で地面を連続で斬りつけ、全て異なる方向へ遠隔斬撃を飛ばす。
敢えて一太刀ごとの軌道をずらしたのは、複数方向から一斉に叩くためだ。
放った遠隔斬撃の合計は十二、それらが同時に巨人へと肉薄する。
——これならどうだ……!?
だが、攻撃に反応して硬質化した毒液は俺の斬撃を悉く弾いてしまう。
傷一つ付けることすら叶わなかった。
複数箇所同時に変えられるってわけかよ……!!
「チッ……けど、まだだ!!」
それだったら、複数方向からじゃなくて一点集中での突破を狙うまで。
もう一度、地面を何度も薙ぎ、遠隔斬撃を繰り出す。
合計十五発——先に放った斬撃は目標地点に到達してもまだ発動させずに留めておいて、全ての斬撃がポイントに到達した瞬間に一斉起動。
今度こそ——!!
しかし、期待は虚しく打ち砕かれる。
「……嘘、だろ」
硬質化した液体の表面はというと、少し欠ける程度の損傷しかなかった。
渾身の斬撃をこれでもかと重ねて畳み掛けたのに——。
全然……全然、通用してねえじゃねえか……!!
俺しかアイツを倒せる人間がいねえっていうのに、肝心な時に役立たずでどうすんだよ!!
身体の奥底から悔しさが込み上げ、絶望に打ち拉がれそうになる。
だけど、それらを押し殺すように奥歯を強く食いしばる。
天頼が必死に時間を稼いでくれてんだ。
なのに俺が勝手に諦めるなんて真似するわけにはいかない。
「まだ止まるな……!!」
だったら、もっと一度に叩き込めば……いや、無闇に攻撃しても無意味だ。
それじゃあ無意味に魔力を消耗するだけ。
連戦に次ぐ連戦でもう魔力もほぼ尽き欠けている現状、これ以上の消耗は取り返しのつかない事になりかねない。
打開策を考えつつ三度、二刀に魔力を流し込もうとした時だった。
「——か、はっ!?」
全身が硬直し、呼吸がままならなくなる。
力も入らなくなり、その場に倒れ蹲ってしまう。
——しまった、一度に魔力を使い過ぎたか……!!
当然か、短時間で合計二十七の遠隔斬撃全てを本気でぶっ放せばな。
相応の反動が返ってきてもなんらおかしくはない。
だとしても、ここまで酷えもんなのかよ……!?
「っ、剣城くん!?」
俺に構うな!!
叫ぼうにも咳と喘息が発声を阻む。
加えて、無理に呼吸をしようとすれば、猛烈な吐き気が襲ってくる。
どうにか吐き出すのを堪えようとすると、更に息が苦しくなる。
遂には身体強化が維持できなくなり、意識が朦朧としてきた瞬間——風属性の魔力が俺の身体を包み込んだ。
「げほっ……はぁ、はぁ……!」
直後、急速に呼吸が楽になっていく。
風属性の魔力が全身に酸素を回してくれてたおかげだ。
「はあ、落ち着いた。良かったぁ」
「天頼……お前、どうして……!?」
上体を起こし、天頼の方を振り向くと、
「——って、天頼!!」
彼女は顔を蒼白とさせ、息を切らしながら膝から崩れ落ちていた。
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