第81話 進撃を阻む者
ダンジョンに突入してから一体どれくらいの時間が経っただろうか。
「はあ……はあ……!!」
打刀で通常の遠隔斬撃を放つ傍ら、脇差で飛ぶ斬撃を繰り出す。
二種の遠隔斬撃で周囲に出現しているスライム、スフィアを片っ端から斬り伏せる。
ずっと、ずっとこの繰り返しだ。
半ば思考停止で、ただ機械的に、延々と。
そのせいで、今俺が何層にいるのかも分からなくなっていた。
はっきりと覚えているのは、五十層に到達した辺りまで。
そこから先は記憶が曖昧だ。
原因は明瞭——そこら辺からダークネスカオススライム、スフィアの数が急激に増加したからだ。
これが自然発生なのか、天頼と春川さん対策によるものなのかは知ったことではない。
けど、もし後者だとしたら、蛇島は相当属性魔術を警戒していると見える。
……いや、どっちかっていうと、東仙さんを消耗させるのが狙いか。
ガチで殺り合うのなら、少しでも削り入れときたいもんな。
まあ、理由は何にしてもだ。
スライム、スフィアらを安定して倒せるのは俺しかいない以上、文字通り死ぬ気で狩り尽くすだけだ。
——刀身に魔力を流し込み、充填が完了すると同時に遠隔斬撃を放つ。
瞬間、視界がぐらつき、脚の力が抜けて踏ん張りがきかなくなった。
「っ——!?」
そのままバランスを崩してしまうも、反射的に打刀を杖代わりにすることでどうにか転倒は避ける。
(っぶねえ……!)
「——っ、SA君!!」
「大丈夫っす!! まだ……戦えます!!」
脇差の柄頭で太腿を叩き、動かなくなった身体に喝を入れる。
まだだ、まだ倒れるな……!
正直、体力も気力も魔力もそろそろ限界が見えてきている。
思考が止まりかけている原因も、溜まりに溜まりまくった疲労がその大半を占めていた。
全身が鉛のように重い。
息は苦しいし、肺が張り裂けそうに痛え。
——だけど、これでいい。
意識が集中の海へと深く沈んでいくのが分かる。
ひたすら無心で二刀を振るう度、俺の中で何かが研ぎ澄まされていく。
遠隔斬撃がより洗練化されていく。
繰り出す斬撃のイメージが少しずつ塗り変わっていく。
点と点を線で繋ぐんじゃない。
点から点に直接届ける感覚。
——最短で、最速で。
伝播させると同時に——斬る。
その感覚がもう少しで掴めそうな気がしている。
だから、どんなに苦しくても攻撃の手を止めるわけにはいかなかった。
そして、あとほんの少しで核心に手が届きかけた。
瞬間だった。
「ストップ!」
唐突に東仙さんに手で制される。
いきなりのことでブレーキが効かず、転ぶも同然の勢いで両手を地面についてしまう。
すると、前方から嘲笑う声が聞こえてくる。
「ひゃははっ!! なんだよ、一人だけボロボロじゃねえか!!」
声の主は、鬼垣重造——この大災害を作り出した元凶の実行犯。
視線を向ければ、にたにたと嫌味ったらしい笑みを浮かべて、俺たちの前に立ちはだかっていた。
「鬼垣……っ!!!」
認識した刹那、ほぼ脊髄反射で奴の首を目掛けて遠隔斬撃を放つ。
……が、繰り出した斬撃は、鬼垣に届く手前で不自然に軌道が変化し、命中することはなかった。
「当たらねえよバーカ! テメエのスキルは対策済みだっつーの!」
「チッ……!!」
鬼垣の言う対策とは、魔力による障壁のことだろう。
ほぼ透明だから注視しないと確認できないが、薄い魔力の膜が鬼垣の周囲に展開されている。
どうやら障壁は、足元にある装置によって作られているようだった。
「おうおう、随分と余裕そうじゃねえか! まさかアンタ一人で俺らの相手をするつもりじゃねえよな!?」
「陸奥森征士郎……! ああ、そのまさかさ! テメエらを蛇島さんのところには行かせねえ。ここで全員ぶっ殺してやるよ!」
「はっ、抜かしやがるじゃねえか! 蛇島の腰巾着野郎がよ!」
槍を構え、征士郎さんが地面を蹴るも、数歩駆けたところで後ろに飛び退く。
直後、征士郎さんの頭上から莫大な闇属性の黒い魔力が降り注いだ。
「……なるほど、迎え撃つ準備はバッチリそうだな」
征士郎さんが舌打ちを鳴らしながら、忌々しげに毒吐く。
攻撃が飛んできた方向を見上げれば、漆黒の魔力に覆われた巨大な骸骨の亡霊が上空に佇んでいた。
——
強大な闇属性の魔力と呪術を操るS級モンスター。
十年前の大災害では、グランザハークと並んで多大な被害を生み出した災厄の一体でもある。
ここに来るまでの間にS級モンスターは何体も見てきた。
だから、災厄級の化け物が出現しているのはおかしくない。
そもそも、元からそういう奴と出会す可能性が高いダンジョンだしな。
だとしても、鬼垣がいるこの階層で丁度よく現れた……ってのは、些か出来すぎた偶然だよな。
証拠に周りを見渡せば、十年前の大災害によって災厄と恐れられたS級モンスターが続々とこちらに押し寄せてきている。
それに加えて、ベヒーモスやダークネスカオスジャンボスライム系統といった普通のS級モンスター(全然普通じゃねえけど)、A級モンスターも俺らを屠るべく大量に集まってきていた。
囲まれる最中、乱れきった呼吸を整える。
思考回路はまだまだ鈍ったままだが、ただでさえ四面楚歌だった戦況がより深刻化していたことは、すぐに理解できた。
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