第62話 交渉か脅迫か
「……は?」
想定外の提案に思考が固まりそうになる。
仲間になれ、とかふざけてるのか。
……いや、ガチで言ってやがる。
蛇島の目を見てそう確信する。
アイツは真面目に俺らを味方に引き入れようとしている。
「……おい。そう言われて俺らが、はい、分かりました……なんて頷くと思ってんのか?」
「いえ、全く。ですが、承諾して頂ければ、あなた方は私に殺されずに済み、私は有能な人材と協力関係を得られる。ほら、どちらにとっても悪くない話だと思いませんか」
協力関係だって?
隷属関係の間違いだろ。
ここで蛇島の要求を呑んだとしても、その先に待っているのは地獄だ。
「ハッ、信用ならねえな。要は俺らを力で付き従わせるってことじゃねえか。命があるだけ丸儲けってか」
「否定はしませんが……私が望んでいるのは、あくまで可能な限り対等な協力関係です。力で押さえつけるのは、私の好みではありません。ここは穏便に話し合いで済ませようではありませんか」
「チッ、どの口が言いやがる……!」
今まさに武力で従わせようとしてんじゃねえか。
海良さんが忌々しげに吐き捨てる。
「まあ、いいや。それで……対等ってからには、俺らにも命拾いする他にも何か相応のメリットがあんだろうな」
「当然です。何がお望みでしょうか。全てとはいきませんが、出来るだけの要望にお答えしますよ」
「だったら……先に教えてくれよ。アンタらの目的、アンタらが今着ているマントの仕組み、それから——なんで行方不明になっている冒険者がこんなになっているのかその理由をよ」
「……っ!?」
海良さんは、うつ伏せになって組み伏せられた鬼垣の後頭部に銃口を突きつける。
直後、それに気づいた鬼垣は、思い切り踠いて何かを叫ぶような動きを見せるが、声は何も聞こえてこない。
——海良さんの術式で発声を封じられたか。
まあ、放置しててもうるさいだけだろうし静かにしてもらえる分には助かる。
「……なるほど。情報を求めますか。ですが、私に答える義理があるとでも? まだ私の要求を呑んで貰えてないというのに」
「信用が皆無なのに協力を結べるわけねえだろ。その答えを聞いて判断する。答えねえっていうんなら、残念だがコイツの頭蓋を撃ち抜いて救助を呼ばせてもらうぜ。元組合筆頭のアンタでも、東仙さんらを一人で相手にすんのは面倒だろ」
「つまり、こちらの誠意を見せろというわけですね。ここから助けを呼べるとも思いませんが……良いでしょう。全てとはいきませんが、お教えしましょう。先ほども言いましたが、まだ鬼垣さんをここで失うわけにはいかないのでね」
戦闘態勢を維持したままではあるが、蛇島の殺気が幾らか弱まる。
「SA、分かってるとは思うが、気は抜くなよ」
「うす……!」
小さく頷いて答えれば、蛇島は海良さんの質問に対しての回答を始める。
「まずはこのマントについてお答えしましょう。これは、繊維状に加工した斂魔鉱石を編み込んだ布地で作られています。これで体外へ自然に漏出する魔力の殆どを吸収し、魔力操作をせずとも他者から魔力を感知されずに隠密行動を可能にします。どうです、なかなかの優れ物でしょう」
「……通りで俺らが気づけなかったし、奈緒の眼とダンジョン前に設置されたゲートどちらも掻い潜ることが出来たわけか。素直に認めるのは癪だが、確かにかなりの優れ物だな」
そういうことだったのか。
それじゃあ、行方不明になった冒険者がダンジョンを出た記録が無いのは、このマントを着させられた、もしくはそれに準ずる何かを身につけさせられたからって考えるのが妥当か。
「そういうことです。では、概ね納得していただけたようですし、二つ目の疑問にお答えしましょう。何故ここに行方知らずになった冒険者がいて、ここで何をさせられているのかを」
「っ!!」
途端、反射的に身構えてしまう。
何もしてないのにも関わらず、猛烈な寒気に襲われたような錯覚に陥る。
無意識に刀に流し込む魔力量が増える。
「もう察しが付いているかと思いますが、彼らがここにいるのは、私どもがダンジョンからお連れしたからです。転移罠で下層で置き去りにされたところを助ける対価としてね」
「助けるって……おい、どの口が言いやがる。アンタらが蒔いた種じゃねえか!」
「ええ、仰る通りです。ですが、弱者が強者の思うがままにされるのは世の常というもの。恨むのであれば、一人で窮地を脱する事のできなかった己の非力さを恨むべきです」
「くっ、このゲス野郎が……!!」
今にも激昂のままに叩き斬りたい衝動を理性でぐっと抑え込む。
感情に流されるな。
それでは、無意味に寿命を縮めるだけだ。
無策に挑んで勝てる相手ではないのだから。
「そう怖い顔をしないでください。殺したくなってしまうではありませんか。まあ、その話は一旦置いておくとして、連れてきた彼らに何をしているかですが、分かりやすく言うのであれば——魔力の抽出です」
「魔力の……抽出?」
「はい。ここに連れてきた彼らは皆、実力こそありませんが保有する魔力量に関しては、私でさえも目を見張るものがあります。ですので、部屋に設置された魔力供給槽に入ってもらい、魔力を提供して貰っているというわけです」
「なるほどな。つまるところあそこにいる冒険者らは、アンタらにとって都合の良い魔力タンクって訳かよ。けっ、随分と胸糞悪い趣味をお持ちのようで」
毒吐く海良さんに対し、蛇島は変わらず柔和な笑みを浮かべたままだ。
「利用できるものは利用するに限りますから。以上が疑問に対しての回答となりますが、納得していただけましたか?」
「……ああ、嫌ってくらいな」
「では、お二人とも私に協力していただけますか」
蛇島に訊ねられ、俺は海良さんと顔を見合わせる。
海良さんは、俺を真っ直ぐと見据え頭を振った。
(——だよな)
覚悟を決め、両手の刀を強く握り締める。
臨戦態勢を取り、警戒を最大限に高める。
そして、海良さんが力強く言い放つ。
「——断る。誰が外道なんかに手を貸すかよ」
「……そうですか。残念です——
「は……?」
俺に視線を向けながら蛇島が落胆のため息を溢した。
刹那——背後から魔力を感じ取る。
いつの間にか後方に回していた毒の弾丸が海良さんに向かって飛んできていた。
咄嗟に間に割り入り脇差での防御を試みるも、完全に不意を突かれてしまったせいで失敗し、毒の弾丸は俺の左肩を貫いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます