第57話 潜入調査
「潜入調査……っすか?」
「ああ、さっきも言ったが件のマントを製造できる存在など限られている。捜査を進めていけば、自ずと犯人候補は浮かび上がってくるだろう。だが、奴らがそう簡単に尻尾を出すとは限らない。証拠を押さえる必要がある。そこで君の力を借りたい」
「俺の力って……特にやれることはないんと思うんすけど」
掩蔽は人並み以上にやれる自信はあるけどさ。
だからって、いきなり潜入しろとか流石に無理があり過ぎんだろ。
「勿論、無茶な注文をしているのは重々承知している。だが、件のマントを見たことがあるのが君と天頼四葉しかいない以上、どちらかに頼むしかない」
「なるほど。それで俺に白羽の矢が立ったと」
「その通りだ。見る限り、隠密行動は君の方が長けているからな。無論、今すぐやれというわけでもないし、組合からも冒険者は派遣する。現地での判断は、その人物に任せるといい」
……まあ、それならいいか。
今までダンジョン中をこそこそ動き回ってきた成果を発揮する時が来た、と考えるか。
「分かりました。それで、具体的にいつぐらいになるんですか?」
「詳細な日時に関してはまだ未定だが、犯人候補が発見され次第、すぐに行動に移すつもりだ。いつでも動けるようにはしておいてくれ」
「……うす、了解です」
* * *
実際に任務に向かうことになったのは、阿南さんから潜入調査を頼まれてから五日後のことだった。
俺は組合から派遣された冒険者と共に、都心からかなり離れた廃棄された施設までやって来ていた。
株式会社
レジャー用品から武器までダンジョン探索に必要なありとあらゆる装備を一から手掛ける大企業で、多くの冒険者がこの会社の世話になっている。
俺が以前使っていたサバイバルナイフも厳堂カンパニー製だったりする。
最近は、魔石から抽出した魔力を利用したエネルギー事業にも力を入れ始めているようで、その為の研究所も新たに設立したようだ。
——そんで俺たちが今いるのは、数年前の移転に伴って放棄された旧研究所だ。
「本当に、ここに証拠があるんすかね」
「さあな。ただ、もう使われなくなったはずの研究所から高密度の魔力が漏れてるのを奈緒が見つけたんだ。少なくとも人に見られたくない何か隠してんのは確実だろ」
答えたのは頭に巻いた黒いバンダナが特徴の男性冒険者——
俺と同じくBランク冒険者であり、斥候や隠密行動を専門としている。
「というか、なんか不祥事とか事故をやらかしてもねえのに完全封鎖とか普通におかしいだろ。しかも、なんでこんな人を殺しかねない侵入対策を施してるとか、防犯にしてもいくら何でもやり過ぎだろ」
海良さんの言う通り、敷地全体は金網でぐるりと囲まれており、上には侵入防止の為の有刺鉄線が巻き付けられている。
事前に受けた報告によると、あの金網には魔力がバッチバチに流れているらしく、触れたら強烈な電撃で一瞬で丸焦げになるとのことだ。
崎枝さんがスキルを使って調べたから多分、情報に間違いはないだろう。
「いや、ホント崎枝さんの眼えげつないっすよね。高性能の魔力センサーでも拾えない残留魔力すら視認できるって半端無さすぎますよ」
「それなー。あれでもうちょっと自力で自分の身を守れたら完璧だったんだけどな。まあ、あれだけの逸材だ。上が前線に出さねえか。全く、俺もあんくらい過保護にしてもらいたいもんだぜ」
わざとらしくため息を吐く海良さん。
嫌味とかは一切感じられないから、軽口を叩いてるだけだろう。
ちなみに奈緒は崎枝さんの下の名前だ。
なんでも二人は同期とのことらしい。
「ま、ちゃちゃっと中の様子を見てズラかろうぜ。本部からゴーサインは、もう降りているしな。てなわけで——準備はいいか?」
「うす。いつでも大丈夫っす」
頷けば、
「オーライ。じゃあ……お前のタイミングで初めてくれ」
「っす」
脇差を鞘から引き抜き、刀身に魔力を籠める。
同時に手元に別で練り上げた魔力を圧縮させ、空中に固定させる。
——霧散は……しないな。
……よし。
維持できていることを確かめてから、圧縮魔力を数回斬りつける。
直後、斬りつけた魔力を地面に落とすと斬撃が地面を這い出す。
そして、遠隔斬撃が金網まで達し、綺麗に斬り裂くと、人一人が余裕で通れるくらいの隙間を作り出した。
「ひゅ〜、すげえな。剣振っただけで遠くの物を斬っちまったよ。一体どういう仕掛けでああなったんんだ?」
「簡単に言うと、飛ぶ斬撃の応用っす。本来は斬りつけて射出した圧縮魔力を対象にぶつけて遠隔斬撃を起動させるんすけど、飛ばさずにあえて地面に落とすことで、斬撃の跡を残さずに遠隔斬撃を飛ばせるようにしました」
飛ぶ斬撃の安定度を上げる鍛錬をしていく中で見つけた攻撃方法だ。
その度にいつもより多く魔力を使うことになるし、魔力を圧縮させる工程を踏まなきゃいけないから、使えるタイミングは大分限られるが。
「はえ〜、かなり手の込んだ芸当だな。でも、おかげで飛び越えずに済んだぜ。警報の類も無さそうだし、ささっと中に入るとしようか」
「了解っす」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます