第43話 防衛終結

 グランザハークの心臓を穿ったのは、莫大な魔力が籠められた槍だった。


 それから数瞬の間を置いて、グランザハークの半身が——爆ぜた。


「……は?」


 一瞬しか視認できなかったが、見た感じやってることは、純粋な身体強化と魔力を籠めた槍投げだ。

 しかし、その威力は天頼がベヒーモスにやった水蒸気爆発に匹敵するほどだった。


 スキルで威力を底上げしているにしても、規格外過ぎんだろ……!!


 あっという間の出来事に理解が及ばない。

 を見据えながら、俺は恐る恐る阿南さんに訊ねる。


「あれってまさか……!?」


「どうやら帰って来たようだな。——我々の勝利だ」


 グランザハークを貫いた槍が不規則な軌道を描きながら空を飛び回ると、吸い寄せられるようにダンジョン入り口に向かって落ちていく。

 高速で墜落していた槍だったが、地上に追突する寸前で何者かに掴み取られる。

 そこに立っていたのは、後方に流すように逆立たせた金髪が目立つ男だった。


 あの男は——、


「陸奥森征士郎……!!」


 東京湾ダンジョン八十六層……つまりは、現時点で確認されている最深層にソロで到達した冒険者。

 その後ろには、俺と同年代っぽい白髪の女性冒険者と三十前後くらいの男性冒険者が控えていた。


 春川りおんと東仙慶次——春川りおんの傍には、ドローンカメラが追従していた。


(……そういえば、天頼のドローンどこいった?)


 辺りをぐるりと見回してみると、上空からゆっくりとこっちに近づいていた。


 まだ壊れていなかったか。

 とりあえずまた新調する羽目にならずに済んで良かった。

 ベヒーモスとの戦いで買い替えてからまだ一ヶ月も経ってなかったわけだし。


(つっても、購入するの俺じゃなくて天頼なんだけど)


「——おいおい、どうなってんだ!? 今咄嗟にぶっ倒したのグランザハークじゃねえか!! しかもなんか滅茶苦茶弱ってたし、一体何が起きたってんだ、ああ!?」


 ふいに陸奥森征士郎の大声が響く。

 ここから大分距離はあるが、よく通るからか言っていることはっきりとが聞こえてくる。


「やれやれ、相変わらず騒がしい奴だ。あのやんちゃ小僧は」


 隣でため息を吐く阿南さん。

 すると、俺たちの存在に気づいた陸奥森征士郎が大きく手を振りながらこちらに駆け寄ってきた。


「あ、昌隆さんじゃないっすかー! どうしたんすか、こんなところまで出張ってきて?」


「お前が今し方とどめを刺したグランザハークの相手をしていたところだ。この二人と一緒にな」


 ——阿南さんの下の名前、昌隆っつーのな。


 今更ながらの新発見に気付かされていると、陸奥森征士郎の視線が俺と天頼に向けられる。


「へえ……天頼ちゃんと噂のSAくんか。なるほど、あんたらがグランザハークを追い詰めたってわけか」


 にやりと唇を釣り上げて、陸奥森征士郎は、


「凄えな……凄えじゃねえか、おい!! 前から見どころがあるなと注目していたけど、まさかここまでだったとは! 全く、面白え奴が出てきたもんだ!」


 あっはっは、と豪快に高笑いする。

 瞬間——その隙を突こうとした数体のモンスターが、奇襲をかけるべく陸奥森征士郎に飛びかかった。


 ——だが、


「遅えな」


 瞬殺。

 神速とも呼ぶべき槍捌きによって、悉くが瞬く間に葬られた。


「えぐ……!!」


 思わず言葉が漏れる。

 何も特別なことはしていない。

 基礎的な魔力操作と槍術だけで、A級モンスター共を圧倒しやがった。


 これが、Sランク冒険者か……!!


「——と、自己紹介が遅れたな」


 槍を両肩で担いで、陸奥森征士郎は言う。


「初めまして。俺は陸奥森征士郎。知ってると思うが、フリーのSランク冒険者だ。征士郎とでも呼んでくれ」


「……こちらこそ初めまして。SAって名乗らせてもらってます」


 軽く頭を下げた時だ。

 背負っていた天頼がこてんと項垂れる。

 何事かかと思ってちらりと横目で見て、そこでようやく天頼が気を失っていることに気が付いた。


 いつの間に……いや、よくここまで意識を保たせたと言うべきか。

 もうとっくに天頼は限界を迎えてたのだから。


「——昌隆さん。二人を連れて離脱してください。後の処理は俺がやりますんで」


「分かった。それじゃあ頼んだぞ、征士郎」


「任せてください!!」


 答えるや否や、征士郎さんはモンスターがいる方へすっ飛んで行った。

 並行して、春川りおんと東仙慶次も既に残党狩りを始めていた。


 大量に放たれた黒と白の魔力が一帯に炸裂し、モンスターを吹っ飛ばしていく。

 それから命からがら逃れたモンスターも勝手に圧し潰れ、引き千切れていく。


 Sランク組がダンジョンの外に出たということは、これ以上モンスターが新たに出現することはない。

 であれば、もう間もなくアウトブレイクは収束するだろう。

 そう確信するくらいの蹂躙だった。


「行こうか。撤退だ」


「……うっす」


 阿南さんの先導で結界の入り口に向かって駆け出す。

 モンスターは近くに何体かいたが、満澤さんと頓宮さんの援護もあって何事もなく掃討部隊に合流し、そのまま俺と天頼は先に結界の外に出る事になった。


 そして、固定コメントで配信を終了する旨を伝えてから切断した数分後には結界内のモンスターの掃討が完了——代々木ダンジョン防衛戦は終結を迎えるのだった。

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