俺、レアリティを操作します〜石でもゴミでも高値で売れる〜

神伊 咲児

第1話 奇跡

 コンビニの弁当で新作が出ると嬉しい。


 変わり映えのないメニューに新風が吹き荒れる感じだ。


 会社帰りにそれを買って、少しだけ気分が弾む。

 今期のアニメを見ながら弁当を食べよう。


 でも、夜空の月を見て思うんだ。


「はぁ〜〜」


 俺には、それくらいしか喜ぶことがない。


 つまらない人生だよな。


 職場と自宅の往復。

 休みは2週間に1回だけ。

 遊ぶ友達なんていないし、ましてや恋人なんてできたことがない。

 休日は1人でカラオケに行ったりしてさ。

 アニソンを熱唱するんだ。


 30歳を超えても童貞か……。




 俺の名前は徳賀  凪庵ないお

 32歳。

 ブラック企業で働く冴えない男だ。

 漫画とゲームが散乱する、ワンルームマンションで1人暮らしをしている。

 

 ふと思うんだ。

 俺の人生はついてないなって。

 目立たない。本当につまらない人生……。


 ある日、いつものようにコンビニで弁当を買って家に帰った。

 サブスクで今期のアニメを観ようと考えていた時だ。


 部屋に入ると女の子が土下座をしていた。



「申し訳、ありませんでしたーーーー!!」



 コスプレした女の子……。

 美少女だけど……誰ぇ?

 

「私は魅力の女神です」


 ほぉ。

 アニメのような展開。

 ほっぺをつねるとちゃんと痛い。


 どうやら夢じゃないらしい。


 謝罪の理由を聞いてみた。


「……俺の魅力にミスがあった?」


「はい。本当は 凪庵ないおさんはカリスマ演歌歌手になる運命だったのです」


「なんだそれは?」


 せめてアニソン歌手にしてくれよ。


「演歌が好きなおっさん、おばさんのカリスマです」


「び、微妙だな……」


「女性人気が特にすごくてですね」


「じょ、女性……」


「老女にモテモテなんです」


 なんだそのパワーワード。

 喜んでいいのか?


「もちろん、若い女の子にもモテますよ!」


 そういうのを聞きたかったんだ。


「将来はアイドル歌手と結婚をする運命だったのです」


「マジか……」


「それが私の失態で……。運命が変わっちゃった。ごめんなさーーい!!」


「いや……」


 泣かれても困る。


 思えば誰にも注目されない目立たない人生だった。

 空気のような学生生活。そして、会社にこき使われて搾取される毎日。

 それもこれも、この女神のミスというのだろうか?


 信じ難い。


「お詫びといってはなんですが、あなたに力を与えたいと思います」


 それは2つの選択肢。


「レアリティを下げる力と上げる力。このどちらか1つをお選びください」


「下げるとどうなるんだ?」


「たとえば1億円で売れる宝石のレアリティを下げた場合。ただの石ころの価値にしかなりません」


「じゃあ、上げるのは?」


「実際にやってみましょうか!」


 俺たちは外に出た。

 女神は石ころを手の平に乗せて、


「レアリティアーーーープ!」


「それ言わないとダメなやつ?」


「あ、念じるだけでいいです」


「良かった」


「これで、この石ころは価値が上がりましたよ」


「普通の石にしか見えんが?」


 すると、通行人の男が俺たちの方へと寄って来た。


「君! その石を売ってくれないか?」


 マジかよ。


「い、いま、手持ちで3万円しかないんだ。少ないかもしれんが、ぜひこの金で売って欲しい。な、なんなら金を銀行から引き出して来るから、待っていてくれ!」


「んーー。ま、いいでしょう。売ってあげます」


「本当か!? か、返せっていっても返さないぞ!?」


「かまいませんよ」


「やったーー! 君は最高にいいやつだな!! ひゃっほーー!! 大儲けだぁああああ!!」


 男は小石をもらって飛び跳ねた。


 本当に3万円で売れちゃったよ……。


 女神はその金を自分の懐にしまってから、


「レアリティダウン」


 すると、さっき喜んでいた男は、


「なんだこりゃぁ!? ただの石ころじゃねぇーーか!!」


 そういって捨ててしまった。


 すごい。

 本当にレアリティが操作できたんだ。


「どうです? どちらの力を選びますか? レアリティアップとレアリティダウンの力」


「1つしか選べないの?」


「残念ながら、人間に付与できるのは1つだけと決まっているのです。2つも選べては神の領域になってしまいますからね」


 1つだけでも十分に神だが……。


 まぁ、選択肢は決まっているよな。


「上げる方でお願いします」


 石ころのレアリティを下げても、ゴミになるだけだ。


「ではどうぞ」


「え? もう?」


「はい」


 軽いな。

 儀式的なものはないのか?


「ふふふ。今からレアリティを上げ放題ですよ」


 まだ信じられない……。


 試しに石ころを手の平に乗せて、


 レアリティアップ。


 すると、脳内に星が浮かぶ。


「なんだこれ?」


「レアリティの数ですよ。星を1個から3個まで選べます」


「さっき、君が試したのは?」


「星1個です」


「つまり、星の数で魅力の強化ができるってこと?」


「そうです。星が多いほど、その物の価値は上がります。星の設定は脳内でできます。星が決まったらレアリティの変更が確定されますね」


 よし。それじゃあ試しに星1個でやってみようかな。


 念じるだけで設定されるらしいから、星1個っと。


 すると、若干だが、その小石は淡い光を発した。


 まさかもう付与されたのか?

 …………こんなことで?


「ちょっと、そこのあなた! その石を売ってくれませんこと?」


 セレブなおばさんが目の色を変えて寄って来た。


 マジかよ。


「今、10万円しかありませんの。良かったら、このお金でダメかしら?」


「いや、しかし、これは普通の石ですよ?」


「な、なにをおっしゃいますの! だったら小切手を切りましょうか?」


「え!?」


「いくら欲しいんですの? 100万? それとも200万円?」


 いやいや。

 こんな石ころに100万円は出し過ぎだってば。

 流石に良心が痛む。


「じゅ、10万円で結構です」


「あはーー! あなたは素晴らしい人だわ! 最高よ!! ありがとうね!!」


 ほ、本当に売れてしまった。


 気がつけば女神の姿は消えていた。


「おーーーーい!」


 と、呼んでみると、彼女の声だけが脳内に響く。


「あなたにレアリティアップの能力を授けます。これで私のミスを許してくださいね」


 本当に女神だったのだろうか?


 ……でも、これは夢じゃないよな。


 俺は手元に残った10万円を見つめていた。


──

全4話です。

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