地球で最後の男(短編)

藻ノかたり

地球で最後の男

ある日突然、大規模な天変地異が起こり、地球は死の星となった。何の因果かオレだけが生き残ってしまい、今ここにいる。


俺は、地球最後の男なのだ。


勿論、まだ生きているものがいないかと、荒廃した大地を探し回ったが、動くものは何一つありはしなかった。よく散歩した公園、商店街、そして懐かしい我が家も今では瓦礫と化し、昔の面影は微塵もない。


絶望にくれた日もあったが、生存本能というのだろうか、オレは心を奮い立たせ何とか生き延びてきた。


現在オレは、地下商店街の小さな店の倉庫として作られたであろう施設に、寝泊まりしている。自らを脅かす存在すら既にないのだから、本来は屋根さえあればどこで寝ようがかまわない。しかし悲しいかな、滅亡前の習慣を変えるというのは難しいらしい。そのため、部屋の貧相なドアさえも閉めて過ごす事が多く、時々物音がするとビクリと起き上がる。


今日も何とか食べ物を見つけた後、ねぐらへ戻りウツラウツラしていると、突然ドアを叩く音がした。最初はまた、風か何かのイタズラだろうと思っていたのだが、どうやら違うらしい。何故ならドアを叩いているその主が、人の言葉を発したからだ。


「おい、ドアの中に誰かいるのか。居るのなら返事をしてくれ。私は生存者だ。入れてくれ」


オレは戸惑った。オレが地球最後の男のはずだ。どこかの小説のように"それは地球最後の女でした"などという事はあり得ない。何故ならその声は明らかに男の声であり、ドアを叩く力強い音も女性のものとは思えない。


オレは警戒をして後ずさる。生き残りが自分だけだと思い、何の逃げ道も用意していなかった事をオレは後悔した。


「おい、開けるぞ。いいな」


ドアの外の声がそう告げると、ゆっくりと扉が開く音がした。入ってきたのは屈強な三十代の男。そして、部屋の隅にいるオレを見つけてこう言った。


「おぉ、なんてかわいい猫なんだ。お前も生き残ったのか。これからは私の家族として、一緒に暮らしていこう」


オレは少し迷いつつも、尻尾を立てながらその男の足下にすりよった。

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