春の話

エイプリルフール

 神様に嘘を吐くのはハイリスクだと思っている。


「――それで、君はどんな嘘を吐くつもりなのかい?」


 すっかり同居人と化した神様さんは、私の正面の椅子に座ってにっこりと笑った。いつ見ても私好みのいい男ではあるが、ガチの神様であるので迂闊なことはできない。

 まあ、神様と言っても、人智を超えた現象というニュアンスの神様であり、造物主的な部分は薄いタイプの神様である。存在自体が、人間ではないという感じ。私の持つ超強力な霊力の余波を受けて顕現した手前、私から離れることができない怪異といったところか。

 そんな都合で、神様としてはおそらく弱い神様ではあるのだけども、それでもとんでもない力を発揮するので油断ならないわけだ。

 私はにっこり笑った。


「あなた相手に嘘を吐く度胸はないですねえ」


 どこでエイプリルフールを覚えたんだ――と思ったら、多分、私がプレイしているスマホゲームから学んだのだろう。

 四月一日ということで、今まさにエイプリルフールに関した本日限定のイベントを社畜魂で稼いだお金を突っ込んで走っているところである。推しを全力で応援しますよ、そりゃあ。


「ふぅん」


 つまらなそうに告げて立ち上がると、私の背後に回ってきた。そしてふんわりと被さるように抱きしめてくる。


「じゃあ、嘘を吐きたくなるようにしてあげるよ」


 耳元で囁かれるとゾクリとする。これはアレだ、スケベな拷問が始まる合図!


「待って、待つの! そういうのはナシで!」

「待たないよ。感じていないって嘘を吐いて好きなだけ抵抗すればいいさ。大丈夫大丈夫、僕が邪魔をした分は君からもらった霊力で奇跡に変えてあげるから」

「だから、そういうのはいらないんですってば!」


 唐突に始まる誘惑我慢ゲーム。その勝者については割愛するが、エイプリルフールイベントで私が全国トップを取れたことだけは記しておこう。


《終わり》

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