第27話 契約条件
「弓弦ちゃん」
ぎゅっと抱きしめられた。びっくりして顔を上げると、頭を撫でられる。くすぐったい。
「君が反対するなら、僕を軟禁していても構わないよ。僕は君のために力を使う怪異だから、君が拠点とする場所にいる必要がある。君が望まないことはできないという制約もある。馴染みの店でも働くことが認められないなら、そう言えばいい」
「じゃあ……ちょっと時間をください。契約条件も知っておきたいので」
「ん? 僕と弓弦ちゃんの?」
「兄貴と神様さんとの仕事の契約条件です!」
ムキになって返せば、神様さんはあははと楽しそうに笑った。わざとか。
「保護者みたいだねえ」
「念の為ですよ。それに、兄貴には世話になっていますからね。ウチに届けてくれた食事の代金、正規の値段で受け取ってくれないし」
「そこは甘えておいていいと僕は思っているけど」
「そういうわけにもいかないんですよ」
「律儀だなあ」
私の様子を確認する口実で兄貴が食事を届けているということはわかっているつもりだ。甘えるのが下手くそな私が、食事を自力で準備できないために兄貴に連絡を取るから、そういう形で定着してしまっただけ。
「神様さんに働きで借金を返済してもらおうという魂胆ですが?」
「うわぁ」
神様さんはあからさまに嫌そうな顔をした。なんでだよ。言い方か?
「兄貴に話が通っているならそんなに心配することはないと思いますけどね、知っておいたほうがあとあと便利なんですよ」
「うんうん。弓弦ちゃんが心配してくれていることはよくわかったよ」
なんかうまく伝わってない気がするが、この話はここまでにしよう。
「詳細は兄貴に連絡して聞いておくとして、今夜はそろそろ寝ましょう。私は明日は出社なので」
「もっとゆっくりしてもいいと思うんだけどな」
「代休の消化が終わりましたし、次のプロジェクトも動き出しているので、把握しておかないといけないんです」
「真面目がすぎるのもどうかと思うよ」
「これは私の長所ですよ」
「ふふ、それもわかってる」
ところで、いつまで私は抱きしめられているのだろう。手を離せともがいていたら、ひょいっと横抱きにされてしまった。
「ちょっと!」
「運ぶだけだよ。体に負担になるようなことはしないさ」
「当然でしょうが!」
「だから、このくらいはさせてよ」
ほいっとベッドに下ろされると頭を優しく撫でられた。
「風邪がぶり返すようなことはしないでね」
「大丈夫ですよ」
「おやすみ」
「おやすみなさい……」
布団を掛けられると額にキスされた。文句のひとつも投げてやろうかと思っていたのに、彼の心配そうに笑む顔が目に入ったらどうでもよくなって目を閉じた。
私はすぐに眠りに落ちる。
《終わり》
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