死神は月を抱いて眠りたいーー死神の生まれたトコロ
漂うあまなす
第1話 ディア(仮)と家について
※主人公にとって母親に当たる人物を
仮名でディアとします。
余り好ましい人物ではないため、言葉をもじった
名前を仮で付け、特定の個別名詞を付けることは
しないようにします。
その家は、その国の主要都市にある高級住宅街
の中にあった。
その家も周りの家も敷地は広く、それぞれが
高い塀で囲まれていて隣の屋敷の物音など
ほとんど聞こえなかった。
その家の家主は政府高官の付き人ではあるが
代々政治家であった。
当代では資金繰りが苦しかったが、資産のある
妻を娶り、出世も資金調達も捗り、
最初は丁重に扱っていた妻への対応も
自身の人生が好調に回りだすにつれぞんざいに
扱うようになっていった………
妻は軍事工業の下請け会社社長の家に生まれた
二人姉妹の姉であった。
会社はとても順調で裕福ではあったが、
周りからは尊敬される地位ではなく
上昇志向の強い家族達はそれがとても不満で
あった。
妻の名前はディアといった。
ディアは家族や他人に対して何かと優位に立ちたい
と望んでいた。
その為の努力もするが、例えば学問であれば
自分が賢いと自慢する為に頑張るが、純粋に
探究心の強い者や元々学力の高い者には
及ばなかった。
そういう時には環境の所為にした。
「親がもっと賢ければ私も賢くなった。」
「もっと家庭教師が優秀だったらよかった。」
「周りに見本になるような優等生がいなかった。」
万事がそのような思考であった。
自分にとって上手くいかないことは全て周りに
原因があった。
(ということに彼女の中ではなっていた。)
彼女は自分が優位に立てないことより、
自分が他人に見下されることが何よりも
許せなかった。
相手の態度や対応が気に入らないと勝手に
「見下されている」と決めつけて憤慨したり
憎しみを持つこともあった。
彼女は必ず自分より地位のある男と結婚すると
決めていた。
結婚相手は人に自慢できなければ意味がないと
思っていた。
伴侶に選んだ男は金は無いが政治家の家系で
将来有望である。
互いの思惑が一致した婚姻は初めのうちは
順調であった。
第一子男児が生まれた時にこの子を夫より
立派な人物に育てようと躍起になった。
己の学力の低さも子どもが優秀であれば
見返せると考えていた。
だがその苛烈な教育方針を見兼ねた夫は
長男が学校に入るタイミングで少し離れた
学校の寄宿舎に入れることにした。
またそれの大分前から夫はディアを避けていた。
ディアは常に褒められ、称えられていないと
気が済まなかったので、夫の政治活動に実家が
援助していることを感謝しろとうるさかった。
また実家では夫の地位や夫の活動をいかに
助けているかについて熱弁していた。
金だけ稼ぐ庶民には解らないだろうと自慢した
後に必ず実家家族を見下すのだった。
ディアはどちらからも感謝され、敬われるべき
だと自認していたため、どちらからも疎まれて
いる状況が耐え難く憎かった。
夫が長男を寄宿舎に入れると決めた時に
それと同時に自分から離れるつもりだと
ディアは直感した。
夫を自分から離さない為に何度も子作りを
しようとしたが、上手くいかなかった。
しかしその内ディアは妊娠した。
父親は誰か分からなかった。
長男が寄宿舎へ入る半年前のことであった。
夫はディアをすぐに追い出すことができなかった。
(妻の不祥事が息子の進路や周りからの評価に
不利に働くと思い大事にしたくなかった為)
本人は夫の子だと言って譲らない。
夫はディアが正常なのかどうか判断できなかった。
結局ディアの問題をそのままにしたまま。
長男を寄宿舎に入れた後、夫はディアのいる
家には帰らなくなった。
そうしてディアは夫と実家から送られる生活費で
一人で暮らしていた。
彼女は人知れず一人でひっそりと子どもを
産んだ。世話をした年老いた産科医に夫は
子どもか産まれたらすぐに処分してほしいと
頼んでいた。
多くの金を包み、約束を違えばあなたを消す事も
できると脅していた。
しかし産科医は産まれた女児を処分できなかった。
産科医から見たディアはごく普通の子宝に恵まれた
優しい母親そのものであった。
ディアは産科医にいつも積極的に話しかけ、
その老医に情を抱かせることに成功していた。
「夫は不貞の子だと疑っているが、私は潔白で
彼は家にしょっちゅう酔って帰ってくることが多く勘違いしているだけで、必ず誤解は解ける。」
と力強く言うのだった。
産まれたばかりの赤子と誰もいない家へ帰って
きたディアは最初の内は甲斐甲斐しく大切に
赤子を育てていた。
ディアはいつでも最初の内は甲斐甲斐しく接したり
世話をしたりする。
それによって相手から自分への印象が良くなると
分かりきってのことであったから。
なので最初の内は相手からの評価は高く、その
結果にいつも満足していた。
だが時間が経つとその評価では満足できなく
なってくるのだ。
彼女は基本的に他人を見下している。
(それについての自覚があるのかは不明)
自分にとってわかり易い利益のある者以外は
奴隷のように自分の心を満たすために尽くして
くれないと気が済まなくなってくる。
その為彼女は人と対等な関係が築けないまま
この状況を迎えることとなった。
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