ごぎゅり
にんまりと笑った魔法使いが魔法で取り出したのは、大きな樽、だった。
え、日を改めて勝負するんじゃないの今からですかもう少しで朝日が拝めそうですね。と、目を丸くした勇者をよそに、魔法使いは二人の前にその樽を置くと、左肘をその上に置いて、始めようかと言った。
何でもありの腕相撲十二回立て続け勝負。
うわあ、魔法使いと手をつなぐなんて初めて、だよね、うん、つないだ記憶がないので初めてだあ、ドキドキしちゃうなあ。
なんて、甘酸っぱい気持ちももちろんあるが。
(う、腕相撲)
ごぎゅり。
勇者はいつの間にか口の中にいっぱい溜まっていた生唾を、大きな音を立てて飲み込んだ。
この真っ白い細腕を甘く見てはいけない。見た目で判断してはいけない。
なんなら、勇者の自分より、腕力、いや、筋力はあるのではないか。
(じゅ、十二回立て続け。何でもあり………何でもあり?)
はて。腕相撲に何でもありとは、魔法使いは魔法を使えるということで。
では、勇者の自分は、剣を使えるということだろうか。
つまり、片腕で魔法使いの魔法を剣で相殺しつつ、片腕は腕相撲に集中しろってこと、か。うん。
っふ。
勇者は不敵に笑ってのち、樽に右肘を乗せた。
「公平を期して、右手左手交代してそれぞれ六回ずつね」
「ああ」
「「「じゃあ、俺/私/わしがレフェリーをしよう」」」
突如として出現した拳戦士と僧侶と魔王に、勇者と魔法使いは頼むと厳然とした声で言ったのであった。
(2023.12.18)
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