すごく
(なんで手刀を打ったんだろう)
魔法使いは両手で持ち上げている十二本の薔薇を視界の中に入れながら、ゆっくりゆっくりと、湖のふちを歩いて考えていた。
求婚は受け入れない。
十二本の薔薇は受け入れる。
勇者に手刀を打った。
「う~~~ん~~~」
なんで。
なんで。
なんで、
何度も何度も言い続けて、眉間にしわを作って考え続けて、膝を抱える勇者の後ろを通り過ぎて湖をもう一周歩くことにした。
まだ、わからなかったので、もう一周。
まだわからなかったのでもう一周。
勇者に今日はもう帰ろうと言われたような気がしたが、生返事をしてもう一周。
勇者について考えた。
情けない顔で頭の中がいっぱいになった。
そうだ、情けない。ほとんど情けない顔だ。
初めて会った時からずっと。
手刀を打った時だって、情けない。
(いや。違う)
魔法使いは歩く速度を速めた。
どんどんどんどん。
軽やかだった足に力を入れて、大地を踏みしめては蹴り続けた。
(違う。違う。違う。あれは)
魔王との闘いの最中でも見せた顔。
一回目の魔王との闘いの時に囚われて、迎えに来た自分に見せた顔。
すごく、気に食わない顔。
諦めた顔だ。
(2023.12.14)
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