第23話 「そして、またさようなら」
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そうして、二人でアイスを買って、河口湖が見えるカフェのテラス席に座る。俺は濃厚バニラアイスで、小雪は巨峰アイスだ。
「小雪」
俺は、ベンチに座りながらアイスも食べずに小雪に話しかける。
「ん?」
アイスをもぐもぐしながら小雪が不思議そうにこちらを見る。
「約束、守れなくて本当にごめんな」
俺は、小雪に許されていも、大切な約束を破った自分のことはまだ許せていなかった。
「もちろん私も最初は、許せなかったよ。約束を破って捨てられたーて思った。でも、湊音にも事情があったじゃん。しょうがない。でしょ?」
確かに、客観的にあの時の状況を見ても満場一致でみんなそう思うだろう。
しょうがない。小雪はこう言うが、小雪は両親のこともあり、誰かに寄り添って欲しかった甘えたかったのだと思う。
そんな中、信頼していた人が突然姿を消したら、幼かった小雪の心は、傍観者では考えられないほど傷ついただろう。
だから、仕方のないことだったとしても、当事者として責任を負うべきだと思う。
一度過ぎた過去は取り戻せない。だから俺は、今俺にできることをやる。
「仕方のないことでも。ごめんな」
「いいよ。私は大丈夫だから」
そんな時、小雪が俺の手にあるバニラアイスを口一杯に突然頬張る。
「あ、俺の濃厚が…」
小雪は、相変わらず一口が大きくて、アイスは半分以上食べられてしまった。
「湊音油断したなー」
小雪が昔と同じように小さく微笑む。
「ほら、私は昔とおんなじ。だから大丈夫だよ。そんなに申し訳なさそうな顔しないで」
「俺は、酷いことをしたんだ。仕方がなくとも、約束を破った事実は変わらない」
「じゃあ、新しい約束をしよ」
そう慈愛の顔を浮かべながら言う。
「新しい約束?」
「そう、上書きするの」
上書き…。
「どんな約束なんだ?」
「もう決まってる」
小雪が昔のような無邪気な笑顔で口を開く。
「3年越しにあったけど、私と昔みたいに、ずっとずーっと仲良くしてください」
「え…。こんな俺でも、そばにいていいのか…」
俺の罪を許してくれるのか。長い間、悲しませた。一人にしてきたのに。
「また昔みたいに笑ってよ。湊音に悲しい顔なんて似合わないよ」
「ありがとう小雪…」
「今回の約束は守ってね」
「ああ。約束だ」
3年ぶりに小指を交える。そんな昔と変わらない小雪を見て、俺の鎖で縛られた様な心は解放されて、晴れた気がした。
そしてそれから1ヶ月ほど経っただろうか…。
この日以来、小雪は一度も姿をあらわさなかった。
3章 Coming Soon...
1月1日。19:15 公開
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