人を愛すること。そして永遠の愛を...君に

雨夜かなめ

プロローグ

第1話 4月8日。「君との出会い」

プロローグ。


今でさえ俺の心に色濃く残っている高校の思い出。忘れもしない約束。

これは2つの愛の意味を教えてくれた、俺が愛した2人の望月小雪の話。


   1


4月8日。

『ピピピ、ピピピ』とタイマーの音が理不尽に脳を活性化させようとしてくる。

起きたくない。起きたくない。 

「あー、もう、わかったわかった」

自分でセットしたタイマーに八つ当たりをするようにボタンを勢いよく押して、鳴り響く音を止める。

布団から起きる気力はまだない俺は、とりあえずスマホを手に取り、電源ボタンを長押しして画面を表示する。

4月8日、今日は高校の入学式の日だ。

「俺の長い休みはもう終わったのか。ついにこの日がきてしまった…」

誰もいない部屋でもつい愚痴が漏れてしまう。

一週間前までは、あと一週間もあるじゃんなどと言っていたが気づけばもう入学式だ。

学校は本当にめんどうくさい。人は勉強をしなくても生きていけるのに、何故今の社会は学歴をこんなにも気にするのか本当に謎だ。まあ、そんなことも言っていられない。高校入学はすぐそこまで迫っている事実だ。

俺は仕方なく布団から体を起こし、カーテンを開ける。

部屋いっぱいに太陽の光が差し込み、目の前には富士山が俺の門出を祝ってくれているように壮大に広がる。

布団にこもって現実逃避をしていたせいであまり時間がないので、急いで支度をしなければならない。

俺は、勢いよくクローゼットを開け3年間お世話になるであろう服を身にまとう。

入学式早々、埃をかぶっているのは申し訳ないと思う。でも仕方がない、俺も着たくて着ているわけではないのだから。

「お互い3年間頑張っていこうな制服よ…」

制服とそんな会話を交わし、時間がないので廊下を走りリビングに駆け足で移動。

トーストを焼きつつ卵も同時に焼く。

時間がなくてもご飯は自分で作らなくてはならないから、一人暮らしは大変だ。

これから学校という戦場に出陣にするのだ、腹が減っては戦はできぬ。

「うわ、焦げた」

こげたトーストを口の中に押し込むように食べる。もっと時間に余裕を持って起きるべきだったと今更になって後悔した。

ご飯を食べて歯磨きをしてそれなりに身なりも整え準備万端。一様、埃っぽい制服に消臭スプレーをする。第一印象は大事だ。

そして、『ガチャガチャ』と鍵が閉まったか入念に確認して家を出る。

最寄駅の富士山駅までは大体5分くらいなので、急いで行けば学校に間に合うと思う。

目の前に聳え立つ富士山を見ながら憂鬱な気持ちの中駅まで走る。別に学校が嫌いなわけではない。勉強が嫌いなのだ。


そんなことを考えていたら、いつのまにか富士山駅に到着した。

大迫力な赤い鳥居が俺を迎え入れる。何度見ても駅に鳥居があるのは不思議な気分だ。

そんな違和感の中鳥居を小走りでくぐり抜け、駅構内で切符を購入し電車に乗り込む。

「それにしても絶景だな。」

あまりの美しさにそんな独り言が溢れる。

そんな、美しい見慣れた景色を見ていると昔の楽しかった思い出が自ずと蘇ってくる。

3年前の味気ないけど幸せだった幼馴染との思い出。

この景色を見ながら遊んだっけな…。どこに行っちゃったんだよ小雪。会いたいな…。

大切な過去を振り返り、過去に戻りたい気持ちでいっぱいだった。

心は過去を向いているのに、足は前に進めなくちゃいけない。いなくなった人は戻らないし、時間は戻ってなどくれないから…。


目的の河口湖駅に到着した俺は、改札を通り同じ制服を着た人たちの後ろについて行き学校の送迎バスに乗り込む。

これから3年間通う河口湖高校は、駅からバスで5分くらいの場所にある富士山の見える高校だ。

学校から送迎バスが出ているので1人暮らしの身からすると交通費の節約になってとてもありがたい。

おそらく乗客はみんな新入生だろう。バスの中は異様な緊張感であふれていた。

でも、そんな中俺だけは緊張はなかった。だって、あの子のいない俺の世界は、3年前から空っぽで色褪せていたから。

そのくらい、俺にとって大切で愛おしい人だった。


5分くらいバスに揺られて学校に到着すると、新入生たちは足早にバスから降りていった。

入学式の前には恒例行事のクラス発表があった。だから、みんな足早に降りるのも頷ける。

このイベントは友達と同じクラスになれるかなれないかで1年間の運命が決まるのだ。

俺は地元から少し離れた高校に入学したから知り合いなんてものはいないのでこのドキドキイベントにも興味はない。

俺はバスからゆっくり降りクラス発表の名簿まで進む。

「矢野(やの)湊音(みなと)、矢野湊音」

自分の名前を下から順に探す。苗字がや行の人間は15年間生きていると自然と名前を下から探す癖がつくらしい。

あった。1年2組か。

1組よりは良いけど、廊下を歩く距離が少し長いから大変そうだなとくだらないことを考えながら、一様、他の名前にも目を通しておく。別にどうでも良いけど。

「え…?」

思わず声が漏れる。2組の名簿を下からざっと見ていると忘れもしない名前が蛍光ペンでマークしたように強調されて視界に入る。俺は、何かの間違いかと思いその名前を何度も読み返す。

「望月(もちづき)小雪(こゆき)」

何度見てもそこには、望月小雪という文字が並んでいる。

それは、3年前突然姿を消し、ずっと探し求めていた幼馴染の女の子の名前だった。

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