第42話 心境の変化
「おお…そんな作戦なのか!それなら、俺も活躍できそうだね。なんてったって、王都No.1の商会だからな!」
「アルバートがいると心強いな。王都の民も信頼しているだろうし。」
「そうですね!アルバートさんは色々な事業をやっていますし、慣れ親しんでいる人なら信用しやすい…作戦はより盤石になったと思います。」
確認が終わり、辺りも暗くなってきた頃、何者かが小屋に近づいていた…
「奴らが集まっている場所はここか…?」
足音を立てないよう、静かに忍び寄っていく。
耳を澄ませて、中の物音を感じとる。
「すやぁ…」
「俺は勇者だぞ…」
(何か変なのが聞こえた気がするが…大丈夫、全員殺せばいいだけ…!)
キィー…
小屋の中では、ぎゅうぎゅう詰めで四人が寝ていた。
(よし、四人全員…まずは青髪のやつ……ん?青髪なんか依頼にいな…)
「隙ありっっ!!」
ビシッ…
物陰に隠れていたサヤが、侵入者に峰打ちを喰らわした。
「がっ…!?」
侵入者が倒れると、三人が起き上がる。
「サヤ、任せてすまなかった…不甲斐ない…」
「レド、そんな落ち込まなくてもいいんだぜ?サヤが強すぎるだけだからな!俺だって、何もしてないしよぉ。」
「誇らしげに言うんじゃないネ…ていうか、マリケスはどうしたノ?一言も喋ってないヨ。」
全員がマリケスの方を見る。
「勇者の必殺…」
まだ夢の中…
ゲシッ
「痛っっ!!おい、誰が俺のこと蹴ったんだ!?」
「暗殺者で起きないなら、お前何で起きるネ!」
ジュディスがマリケスを蹴って起こした。
腰を押さえながら立ち上がり、暗殺者を見る。
「で…こいつが暗殺者か?兜被ってるが…」
「俺が取る…」
ジュディスがランタンを持ち、辺りを照らしている間にレドは兜を外す…
「…こいつは…!?」
「誰なんだ?俺にもよく見せろ!」
「…俺、知ってるぞ!確か名前は…マレニア…俺に弟子入りしに来た!」
「私たちも知り合いナノ!ここに来る前に会って…魔道具を売ってたヨ!」
暗殺者はマレニアだった。
マリケスはぽかーんとしているが、他の四人は知り合いのため、驚いている。
「と…とりあえず拘束しよう。魔道具を使われたら厄介だ。」
ロープを取り出してマレニアを拘束し、皆で話す。
「マレニアって誰だ?俺は接点がないから知らないぞ。」
「マレニアは腕利きの魔道具師だ。このランタンも、こいつが作ったんだ…だからこそ、信じがたいんだが…」
「こんなことをする人じゃないと思ってたんですけど…一体どうして…」
「だけど、かなりの野心家そうだったのはあるネ。お金に目がくらんで。とかだったらわかる気もするケド…魔道具で成功したいって言ってたヨ?」
知り合いだった四人は、かなりショックを受けている。
特に、アルバートが落ち込んでいて…
「大商会の俺に、文無しで弟子に来たバカだ。見込みのある奴だったが…残念だね。魔道具師としての実力も、確かだったはずなのに…」
マレニアを気に入っていて、実力も認めていた。
よきライバルとなる…そう見越していたため、余計にショックなのだ。
しばらく話していると…
「………くそっ、失敗か…」
マレニアは目を覚ました。
「マレニア、どうして俺たちを殺そうとしたんだ?」
「へっ…尋問って訳かい。私は見ての通り、金に困っていてね。魔道具を作るためにも、人を助けるためにも、お前らを殺すしかなかった…それだけ…」
「俺は…いや…俺たちはお前を信じてたぞ?マレニア…俺の一番弟子だったからな。」
寂しそうにそう言うアルバートに、マレニアは心が痛んだ。
「アルバートさん…」
黙り込むマレニアに、サヤは尋ねる。
「人を助けるためにも…そう言いましたよね?誰を助けようとしてたんですか?」
「…兄さんだよ…たった一人の、大事な家族なんだ…」
…………………………
「兄さん、新聞だよ!今日も読んで!」
兄とマレニア、裕福でなくても幸せな家庭を築いていた二人…
今日も朝のルーティーンを遂行する。
「マレニアは新聞が大好きだなぁ。いいことだぞ~?世界中の大事なことが載ってるすごい紙…それが、新聞だ。」
「毎日それ言うよね。かっこよくないよ?」
「グフッ…痛い…」
マレニアの純粋な言葉が、兄の心に突き刺さる。
二人は毎日、朝の新聞を一緒に読んでいて、世界の情勢や占いまで…全てを読み尽くしている新聞マスター。
貧しい暮らしをしている二人は、いつか商人になって世界中を駆け回ることが夢だった。もちろん、兄妹揃っての商会である。
「あたし、いつか絶対大きな魔道具の商会を開くの!私たちみたいな人でも買える、便利で生産性のある魔道具!」
「そうかそうか!そのときは、兄さんも隣に居させてくれよな。」
「うん!!」
そんな二人を、流行り病が襲った。
身体の強かったマレニアは感染しなかったが、正反対の兄は感染してしまい…
今もベッドで寝たきりとなっている。
マレニアが十四歳のときだった。その後、新聞で得た知識と図書館の本を駆使し、なんとか魔道具を作ることに成功した。
「兄さん、あたし夢だった魔道具で生きて行くよ。あと少しだけ、頑張ってね…」
「マレニア、ありがとう…お前は自慢の妹だ…」
嬉しそうに、ニッと笑い合った。
…………………………
その後はアルバート商会に弟子入りし、今に至る。
「まだ十四歳…短い人生だった!んで、マリケスだったか?」
「そうだが…何かあるのか?」
「二つ、願いがある。兄さんやスラムの奴らを助けてやってくれ。皆…助け合った仲間なんだ。それと、依頼主を取っ捕まえること。殺そうとしといて悪いけど…あんた王太子なんだろ?」
「…ああ、俺はこの国を変える。気が向いたら、そのついでにやってやらんでもないぞ。」
まさかの返事に、マレニアはきょとんとする。
「あんた、いい噂聞かなかったけど…何か心境の変化でもあったのかい?」
「そんなところさ。で、お前ら…マレニアの処遇はどうする?王太子としての、俺の意見は決まってるが。」
「王太子として、マリケスが決めてくれ。」
他の三人も頷く。
「決まりだな。お前の処遇は…」
「…………………」
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