第三章・始まりの扉

 フィンの涙がエスタシオンの肩に染み込む──と同時に、予期せぬ交代が場に生じて。


「あら、ではお二人は両想いだったのですね」


 久々の「ネウマ」の屈託ない笑い声に、フィンは慌てて涙を拭った。

 赤面していたのだろう、まだほんのり顔が赤い。


「す、すまんネウマ。お前を巻き込むつもりじゃ──」


「いいんですわよ? フィンさんも、エスタシオンさんも、ずっと何らかの辛さを抱えていらっしゃいました。それが解放できるなら、わたしは本望ですわ。さあ、抱きしめるなり何なり──」


 大きく両手を広げたネウマに、フィンはひらひらと手を振って微笑んで見せた。


「気持ちだけ受け取っておくさ。ありがとうな、ネウマ。お陰で奴に心を伝えられた。有り得ない幸せだ。今は、それで十分さ」


 ネウマは小首を傾げると、何かを悟ったように頷く。


「あら、そうですの? エスタシオンさんは? ──ええと、“私も同じです、十分ですよ”だそうです」


 胸中に響いた声に、改めて首肯した。


 遠い想いを解放したフィンの表情は晴れ晴れとしていて、エスタシオンもまた同じで──ネウマは、少し──ほんの少しだけ羨ましそうに、しかしとても嬉しそうに、二人を眺めていた。


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