第三章・始まりの扉
涙するものの、頑として口を開かないネウマ──エスタシオンに、フィンは溜め息混じりに声をかける。
「あのなぁ……もう、いいんじゃねぇか? 呼んじまっても」
対するエスタシオンはなおも口を閉ざしていたが、やがて何かが晴れたかのように、そっと口にした。
「……うえ……父……上、父上っ……!」
嗚咽は少しの間続き、その後、照れながらの感謝の言葉がフィンへと向けられる。
それはいつものエスタシオンの、心を覆ったものではなかった。
「ありがとう……ごめんね、ありがとう……フィン君」
フィンは頭を振ると、呆れたような笑みを浮かべる。
「お前から感謝されると何かしらありそうで怖いわ。全く──面倒だったぜ」
「誰が言い出したんです? あの堅物の父上に、もう一度私を息子だと認めさせようなんて」
「俺だ、悪いか?」
「いえ、悪くないです、嬉しいです。ラグ君も協力してくれたんですね」
「ああ、全力で協力します、って言ったぞ。そして本当に全力投球だったなあれは」
「ラグ……悪いことをしてしまいましたね」
「気にすんな、手紙が無事届いたって知ったら喜ぶだろう」
言ったフィンの頭を、エスタシオンだがネウマである手がそっと撫でる。
「ありがとうね、フィン」
微笑む表情は、エスタシオンのそれそのもので。
「お前、本当にエスタシオンなんだな」
「ギリアム……ルシェード様とかが良かったですか?」
「やめろ、やめてくれその名前だけは。いい思い出がひとつもねぇ」
「おや、失礼。この名を出せば、さすがに私だと伝わるかと思って。ちなみに、私も言いたい名ではないですね」
苦虫を噛み潰したような表情をしたエスタシオンに、フィンも首肯で応えた。
「お、おう……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます