第三章・始まりの扉

 涙するものの、頑として口を開かないネウマ──エスタシオンに、フィンは溜め息混じりに声をかける。


「あのなぁ……もう、いいんじゃねぇか? 呼んじまっても」


 対するエスタシオンはなおも口を閉ざしていたが、やがて何かが晴れたかのように、そっと口にした。


「……うえ……父……上、父上っ……!」


 嗚咽は少しの間続き、その後、照れながらの感謝の言葉がフィンへと向けられる。

 それはいつものエスタシオンの、心を覆ったものではなかった。


「ありがとう……ごめんね、ありがとう……フィン君」


 フィンは頭を振ると、呆れたような笑みを浮かべる。


「お前から感謝されると何かしらありそうで怖いわ。全く──面倒だったぜ」


「誰が言い出したんです? あの堅物の父上に、もう一度私を息子だと認めさせようなんて」


「俺だ、悪いか?」


「いえ、悪くないです、嬉しいです。ラグ君も協力してくれたんですね」


「ああ、全力で協力します、って言ったぞ。そして本当に全力投球だったなあれは」


「ラグ……悪いことをしてしまいましたね」


「気にすんな、手紙が無事届いたって知ったら喜ぶだろう」


 言ったフィンの頭を、エスタシオンだがネウマである手がそっと撫でる。


「ありがとうね、フィン」


 微笑む表情は、エスタシオンのそれそのもので。


「お前、本当にエスタシオンなんだな」


「ギリアム……ルシェード様とかが良かったですか?」


「やめろ、やめてくれその名前だけは。いい思い出がひとつもねぇ」


「おや、失礼。この名を出せば、さすがに私だと伝わるかと思って。ちなみに、私も言いたい名ではないですね」


 苦虫を噛み潰したような表情をしたエスタシオンに、フィンも首肯で応えた。


「お、おう……」



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