第二章・優しい追い風

「シュナさ……シェーナさん!」


「どっちでもいいけど、私の服を掴むくらいには会いたいと思ってくれてたのかしら?」


「え? あ、ごめん! つい。……うーん、そうだね、会いたかった、かな?」


「そこ疑問符で返さない。全く……前みたいに忙殺されてないんだから、己と向き合えアホズロ」


 マントを遠慮がちに掴んだ手は払いのけずに、紫の髪の女性……シェーナはアズロに微笑む。

 片手でアズロの頬をつねるオプションつきで。


「いたた……了解。ところでシェーナさんは任務中?」


「ええ、ラシアンに向かってたのだけど、アズロたちの姿を見かけたから、ちょっと悪戯をしようかなって。あっちの白い少年はフィンさんでしょ?」


「新しい術で悪戯しようとしたけど、見知らぬ女の子と一緒だったから任務かと思って見守った?」


「うん、そう」


 そっとマントから手を離し、シェーナさんが悪戯なんて珍しいねと囁くアズロに、シェーナは素早く足蹴を食らわせた。


「かつて空中から急襲して何もしない悪戯をした師団長には言われたくないわ」


「あれは悪戯じゃなくて任務……」


「任務はこなさなかったくせに」


「はいすみません」


 迫り来る新たな蹴りをよけつつ、アズロは子細を説明する。

 繰り広げられる疑似戦闘は、二人の戦力的に大差がないから出来る準備運動を兼ねた憩いのようなものだった。


「よっ……と、あのさ、アクア西神殿の巫女のネウマさんの腕力がアラマンダ並にデンジャラスだから任を解かれて――わ、危ない。えっと、フィンさんが安全な場所まで――僕も同行することになっ……うわっ、セーフ!」


「はぁ、はぁ……くっそ届かないわね! よし終了! だいたいわかった」


 音もなく再び地面に着地したシェーナは、近付いてきた二人を振り返る。

 フィンは軽く拍手を、ネウマは呆然とアズロたちを眺めていた。


「――お時間いただきごめんなさいね、フィンさん、ネウマちゃん。訓練の時間がなくて身体が鈍っていたの。だいたいは聞いたわ、私はシェーナ。ヴァルド軍第二大隊所属の者よ。今はラシアン城壁付近で警備に当たっているの」


「所属……」


 含みのある笑いを浮かべたフィンとアズロを横目に、シェーナはそっとネウマに手を差し出した。

 真っ白で細いネウマの指先もまた、ふわりと握り返す。


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