第2話
今朝、式条が大学に向かっている途中だった。
最寄りの駅を出るとキョロキョロとして不安そうな顔をしている女性を見かけ式条は迷わず声をかけた。
「どうしました?」
「……私が見えるんですね!? よかった~」
どれくらいの時間彷徨っていたのだろうか、女性は心から安心したような表情をしていた。
「気がついたらここに立っていたのです。知らない場所で怖くて。しかも声をかけてもみんな私のことを無視するのです。もう私、どうすればいいのか」
「それは大変でしたね」
それから式条は女性にいろいろとたずねてみたのだが、女性は自分の名前すら覚えていないと言うのだった。
道ばたでひとりで喋っている式条の姿を周りの人間たちが不思議そうな顔をして見ていく。
「よかったら、俺の大学がすぐそこなのでついてきてください」
そうやって連れてきた女性に話を聞いていたのだが、わかったのはどこにあるのかさえわからない公園のことだけだった。
「……なんだか私、疲れちゃった」
「ええ。目を閉じて眠ってください。もしもまた彷徨うようなことがあればここに来てかまいませんので」
「はい……ありがとう」
式条の目の前で女性の姿はだんだんと薄くなり消えてしまった。
式条は早速大学内の図書館へ向かった。
女性の記憶の中の公園を探すためパソコンでありとあらゆる公園の写真を眺めていた。
幸いにも思ったより早くあの『変な形をした穴の空いた壁みたいな物』という特徴的な遊具のおかげで女性が話していた公園に似た写真を見つけることが出来た。
「ほう……」
そしてその公園には式条が興味をそそられる情報が多々書いてあった。
『夜の公園を徘徊する通り魔』
『幼い子どもが犠牲者に』
『楽しい公園は恐怖の公園へ』
『のれないブランコがいよいよ撤去か』
『あの住吉公園の跡地にマンション建設!?』
記事を読んでいくとどうやら約二十年前にこの公園で通り魔による殺人事件があったらしい。
血まみれになったブランコは新しく作り直したそうだが子どもたちがのろうとすると何者かに背中を押され弾き飛ばされてしまうという噂が広まった。
のれないブランコと呼ばれているブランコとともに公園自体を更地にしてマンションを建設しようという案が浮上しているのが現在のようだ。
「住吉町なら電車で三十分か」
式条はパソコンの電源を落とすとすぐに図書館を出た。
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