救いを求めて

クロノヒョウ

第1話


「小さい頃……確か小学校にあがるかあがらないかぐらいだったと思います」


 まだあどけなさの残る色白の美しい女性は式条しきじょうカケルが置いた目の前のコーヒーカップから立ち上る湯気を見つめながら話していた。


「毎日のように近所の公園で遊んでいました。大好きなお兄ちゃんと二人、家を出て少し坂を上ると長い階段があって。階段を登り詰めた所に公園があったのです」


 式条は自分のマグカップにもインスタントコーヒーの粉を入れポットのお湯を注いだ。


 『幽霊研究サークル』


 式条がこの大学にきて立ち上げたサークルだ。


 メンバーは式条ひとり。


 時おり容姿端麗な式条目当てに入ってくる者がいるのだが皆式条のガチな霊感を目の当たりにするとついていけなくなり去っていくのが常だった。


 おかげで真剣に幽霊と向き合ってどうやって成仏させようかと試行錯誤している日々を邪魔されないですむ。


 式条にとってはありがたいことだった。


 幽霊が視えて幽霊と会話しているとなると気味悪がられたり変な目で見らるのは当然で、霊以外のことには無頓着な式条が普通の・・・人間と深く付き合うことはなかった。


 このサークルの狭い部室にこうやって霊や得たいの知れない何かに悩まされている者たちが式条を訪ねてくるものだから人とかかわる時間もなかったのだ。


「けっこう広い公園でした。真ん中に砂場があって変な形をした穴の空いた壁みたいな物があって。回りにはブランコ、滑り台、ジャングルジム、鉄棒、シーソー、タイヤ、とにかくいろいろあって一日中遊んでいられました」


 式条はテーブルを挟んで女性の正面に座りコーヒーをひとくち飲んだ。


「私もお兄ちゃんもブランコが大好きで。よく二人で並んで座ってどっちが高くこげるかなんて競争してました」


 女性は式条の顔を見ながらにっこりと微笑んだ。


「お兄ちゃんに勝ったことはないですけど」


 少女のような純粋な笑顔はすぐに悲しげな表情へと変わった。


「お兄ちゃんのことが心配です。覚えているのはそれだけです」






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