第3話

   

「それより今は、もっとホットな分野があるからなあ。そっちは研究費も出やすいし、うちでも始めることにしてね。追加の研究員が必要となり、君を雇ったわけだ」

 ボスの口調は柔らかいけれど、俺の耳には冷たく聞こえた。

 生物系ならば誰でも良かった研究員だ。ウイルス専攻の俺が選ばれたのは、たまたまだったのだろう。


 ちょうどかつてのブームの頃は、まさにアポトーシスこそが「ホットな分野」で「研究費も出やすい」状況だったはず。

 分子生物学の中で、今それに当てはまるのは……。

 頭の中で予想を立てる俺に対して、必要な研究資料をボスが手渡す。

 書類の冒頭に書かれているのは思った通りの言葉なのに、それでも俺は叫んでしまう。

「……霊能遺伝子!」


 一般に流布している用語としては霊能遺伝子だが、専門家としては霊能遺伝子群Psychic Occult Genesと呼ぶべきだろうか。

 いわゆる霊能力者の体内に、特異的に活性化されている遺伝子群があるらしい。最近それを示唆する研究報告が続出して、マスコミでも大きく取り上げられていた。

 なお霊能力者を自称する者の中には、この霊能遺伝子群の活性化が見られない者もいる。それは「自称」に過ぎない偽物だったと暴かれる形になり、これまで全般的に眉唾と思われていたオカルト関連の中で、本物と偽物とが明確に区別されるきっかけにもなった。

 この辺りの話は、ネットやテレビのワイドショーなどでは格好のネタなのだが……。


 我々研究者にとって重要なのは、本物の霊能力者の間で霊能遺伝子群が「特異的に活性化されている」ということ。あくまでも活性化であり「彼らだけが持っている」というわけではない。つまり霊能遺伝子群そのものは、誰もが持っている遺伝子なのだ。

 ならば、この遺伝子を詳しく解明して、現在は体内で不活性状態の霊能遺伝子群も強制的に活性化させることが出来れば……。

 全人類がオカルトじみた霊能力を発揮できるのではないだろうか?

 そんな期待感も加わって、霊能遺伝子群の研究が盛んになってきていた。

   

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