第4話 三問目

 報酬まで残り一問。

 冬の近づく季節は日が落ちるのが早く、茜色の景色に蛍光灯がポツポツと灯り始める。親と手を繋いで公園から出る子供たちを遠目に、志谷は小説を鞄にしまった。


『三問目。何故、俺が志谷に電話したのか、当ててみてくれ』


 志谷は顎に手を添えて、思案する。

 同じ中学の教室にいたという意外に、接点のない自分たち。にも関わらず、村戸が自分を覚えていた理由。

 予想は、意外と直ぐに出た。


「ーー私に覚えていて欲しかったから、でしょうか」


 村戸が一瞬押し黙った。


『…その理由は?』

「私が、何故私に電話したのかを聞いた時、村戸君は『私が記憶探偵として有名だったから』と答えました。

 つまり、私の記憶力目当てで電話をかけたということです」


 電話に出た当初に、本人が言っていた。志谷は中学で有名だったと。「記憶探偵」なんてインパクトのある名前だったから、今まで覚えていられたのだろう。


「先ほどまでの質問は、記憶力のテストです。

 どれも地元の通学路や、井戸端会議のおばさんたちを覚えていなければ答えられませんでした。私は地元から5年ほど離れていますし、音だけで場所を探るのは、通学路の記憶なければ、いささか難易度が高いです。

 問題を出す前に、私が何処の高校と大学に行ったのか聞いたのも、地元周辺の学校に私が通っていて、頻繁に実家に帰省していた場合を想定してのことでしょう」

『単純に雑談の可能性もあるが』

「私が地元から遠い学校に通っていると聞いた時、村戸君は『良かった』と言いました。初めから質問の準備をしていたのではないでしょうか。

 ーー村戸君は、何らかの事情で自分の事を覚えていて欲しかった。だから、記憶力のいい私に頼った。

 私はそう予想します」

『……ああ。そうだよ』


 スマホの奥で、村戸が笑った気がした。


『俺は、誰かに自分の存在を覚えていて欲しかった。だから、志谷に電話した。志谷は数年ぶりに会った俺の口調や、携帯番号を覚えていたし、地元の地理も記憶していた。噂が嘘ではないと確信して、ホッとしてるよ』

「そうですか」


 全問正解。これで、報酬は確保できる。マウンテンパフェを食べられる。

 しかし、嬉しさは無かった。パフェよりも、もっと重要な物が脅かされようとしているからだ。


(私が、聞いてもいいのか)


 一瞬口籠るが、志谷は直ぐに口を開いた。


「……これは、予想なのですが」

『何だ?』


 軽い口調で尋ねる村戸に、志谷は小さく歯を食いしばった。


「ーー村戸君、自殺しようとしていますよね」


 沈黙が駆け抜ける。

 返答が無いのが、答えだった。

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