志谷と村戸の通話ミステリ

かんたけ

第1話 着信

 行きつけのカフェが、新たなサービスを始めた。

 その名も「カップルメニュー」。名前の通り、カップル限定で提供されるメニューの事だ。

 中でも志谷栗沙が気になっているのは、マウンテンパフェである。

 サクサクのコーンフレークの上に、ショートケーキ、ガトーショコラ、バニラアイスが乗り、その上を各種フルーツでふんだんに彩る。語源に相応しい完璧なデザート。甘党には目が無いメニューだ。

 しかし、残念ながら志谷は独り身。

 顔立ちは整っていると言うのに、冷淡な口調故か、カップルを偽装してくれそうな友人も知人もいない。

 彼女持ちの従兄弟に相談したところ、大学生にもなって色恋の一つもないのかと呆れられてしまった。パフェは通常料金の倍額を支払えば一人でも食べられるらしいが、生憎金欠気味なので、手詰まりだ。


「仕方ない。今日はカフェではなく、公園で読書でもしよう」


 カフェに行くと、マウンテンパフェが食べたくなってしまう。


 そうして公園のベンチに腰掛けたところで、スマホに着信があった。取り出すと、「村戸和樹」と表示されている。


(…ああ。中学生の頃、一度だけ同じクラスだった村戸君か)


 あの頃、クラスでメールのグループを作った覚えがある。卒業してからは全く使われていないし、村戸の存在も表示されるまで忘れていた。

 クラスの隅でロマンチックな恋愛小説を読む、物静かな男子、という印象があったが…。

 志谷は、取り敢えず電話に出る事にした。


「もしもし」

『もしもし。志谷の携帯であってますか?』

「はい。そちらは、村戸君の携帯でしょうか。中学の同級生の」

『…ッス。ええと、早速だけど要件言うわ』


 声変わりをしたようで、想像よりも声が低かったが、話し方はあまり変わっていない。

 村戸はぎこちないながらも、意を決して口を開いた。


『今から出す問題を、推理して答えて欲しいんだ』

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