流れ星のように
藤いろ
第1話・流れ星に会う
寒い日。一段と寒い日だった。
その分空気が澄んでいるらしく「星」がよく見えた。
「あの星?」
私が聞く。
「多分、少し右のやつ」
彼が答える。
白い息が出る。寒いのに暖かい。よく分からない感覚とよく分かる感情が混じる。
「もう行くの?」
「うーん、多分」
「そう・・・・」
外灯のあまりない民家の密集する路地で私達はそんな最後の会話をした。
半年前の夏。
例年より暑いなんてニュースでは言うけど、そんなの毎年言ってるなぁと思う。
そんな例年より暑いらしい8月。
夜10時頃、私はコンビニに行った。カプ麺を食べたくなったから、カプ麺にお湯を半分入れた所でお湯がなくなった。
「あのーお湯ないんですけどー」
「お姉さーん、お湯よりもっと良いものいれようぜー」
「ギャハハ!うわーちょう下品ッスよー!」
いかにもな奴らが絡んできた。
店員さんは・・・・あ、見て見ぬ振りしてる。
「いや大丈夫」
「俺はもう大丈夫じゃないんだよー!ちょっと一緒に行こうぜー!!」
「ギャハハ!先輩めっちゃ強引ー!」
二人の気持ち悪いナンパはその後もギャーギャー何か言ってる。
面倒くさい。あーどうしようかなー。
あ、お客さん入ってきた。そのお客さんは小走りでお菓子コーナーに向かった。
「あー新しいチョコミントのやつないーー」
5秒後トボトボとお菓子コーナーから出て帰ろうとするお客さんに私は言った。
「助けてくれたら、私の買った新作チョコミントあげるけど」
「え、ホント?」
こっちを向いた。
サラサラの黒髪に、変に偏った切り方をした前髪に、180cmくらいかな。
「何だよテメー、邪魔すんの?え?やっちまう?やっちまう?」
「先輩ヤバかっこいいー!」
「あーえっとその人私の恋人なんですよー」
「「嘘下手!!」」
あ、ダメかな、この人。
「あーじゃあ。コレで」
黒髪長身はそう言うとナンパ野郎2人の首元を指つついた。
その瞬間ナンパ野郎達は崩れ落ちるように床に顔面から倒れ込んだ。
私はすかさず奥で様子を伺ってる店員さんに声を掛けた。
「お湯ください」
お湯をもらい店を出る。外では黒髪長身さんが待っていた。
「ありがとうございました。コレお礼の新作です」
「うあーやったー」
受け取ってすぐに雑に箱を開けてチョコミントを頬張る。
「美味しい~」
私は黒髪長身さんの隣で車止めに座りながらカプ麺を食べながらそれを見る。
「さっきのどうやったの?」
「さっきの?」
「ナンパ倒したやつ」
「あー星を突いただけ」
「ほし??」
「星」
何言ってんだ?ほしって星??首元に星のホクロでもあったのか?
「見えないの?君には」
「多分。見えないかなぁ。それツボ的な?」
「まーそうかなぁ。突くと人が意識なくなる赤い星があるんだよ」
突くと意識かなくなる赤い星。なんだそりゃ。分からない、でも別に分からなくても良いや。こうして助かったし。
「そう。すごいね」
「普通じゃない?」
普通じゃない。私が言うのもなんだけど。
特にその事について返事はしなかった。
「あなた、名前なんていうの?」
「あー何だっけ」
何だっけ?
「確かココにえっとねー」
そう言って黒髪長身さんはポケットをゴソゴソあさり、1枚のカードを見せてきた。
「これ、名前」
「金星 流星。キンセイ リュウセイ。リュウセイってカッコイイね」
「いや、カネホシ スターダストって読む」
「キラキラネーム」
流星でスターダストって色々間違ってるような。でも、まだマシな方なのか。
「え、これ大学のやつじゃん。自分の名前覚えてなくても大学って受かるんだ」
「らしいね。将来に希望持てるでしょ」
いやまぁ行かないけど大学。将来に希望って。
「君はえっと何て言うんだっけ。大学の前の学校」
「私はJKだよ」
「そうそうJK。私もそうだった、思い出した」
色々怪しくなってきたな。何か噛み合わないと言うか、話がズレてる?
「で、君の名前は?」
「どうせ忘れるでしょ」
「いやー多分。忘れない」
根拠のない自信。高校ってのも自分の名前も忘れてたクセに何だそりゃ。ハハッ、こんな時だけ目見て話すなよ。見られるのは慣れてないんだよ。
「まぁあなたになら良いか。苗字が水町。名前は愛平和って書いてラブアンドピース。私もキラキラネーム」
Vサインして答える。
「良いね、似合ってる」
「・・・・嬉しくない」
こんな名前で苦労はしたよ。小学生の時かな。そりゃあバカにしてくる男子もいたし、陰口言う女子たち。その度机と椅子をぶん回した。その度親が学校来た。それの繰り返し。ある意味自業自得?全然名前と違う人生だね。
親は何でこんな名前を付けたんだろう。
今となってはもう分からない。
そんな事を考えながら空を見上げる。
気づくと黒髪長身さんも一緒に空を見てた。
星が見えるなんて不思議な人。
「じゃあチョコミントありがとう。帰るよ」
黒髪長身さんが立ち上がる。
「あ、ありがとうございました」
「じゃあね、帰りも気をつけて。ラブちゃん」
「はい、あースターダストさんも気をつけて」
私はスターダストさんが見えなくなるまでその背中を見ていた。
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