第4話 4
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ある日、人様々であるみたいなのだが、ぼくの場合、童話の中に出て来るお姫様みたいなドレスを着て、可愛いハンドバッグを手に街中を歩く自分の姿が、頭の中に浮かんで来た。あれが、始まりだった気がする。テレビの映像で観たのか、「小学ランド」という子供向きの本を毎月購入していたので、そんな写真か挿絵がその本に掲載されていたのかも知れない。お姫様みたいなぼくの長い髪はカールされ、栗色だった。
ぼくは、そんな空想の世界にたびたび入るようになった。
少女になったぼくは、決まって、体全体が、温かな被膜に覆われた。そうして、気持ちよくなった。十歳かそこらのぼくは、その言葉を知らなかったが、あれは、まぎれもなく陶酔感だったと思っている。
野球というスポーツは、ぼくにとっても合っていた。野球の虜になった。足が速く、打撃もまあまあ、それ以上にショートとして守備範囲が広くて、滅多にエラーをしないぼくは、ブラックジャガーズの主力選手になった。だから、ますますやる気になった。
その傍ら、野球を離れると、本当の自分は、男の子ではなく女の子だとする空想に入り込んだのだった。スイッチ、いつからかぼくの頭の中に大きなスイッチが作り出されていた。女の子としてのスイッチが、ガシャンという音と共に入れられ、忽ち、ぼくは空想の世界に引き込まれる。
空想の世界で、六年生の終わり頃には、男の子と濃厚キッスをしていた。トランスジェンダーとして、早熟なのか晩熟なのかは分からないが、中学生になったぼくは、裸で男の子と抱き合うようになった。そうして、忌まわしいチンチンに刺激を与え精を放出したのだった。
事後の疲労感の中で、自分の中に居座る異常性や未来の自分に対する不安感にさいなまれるようにもなった。
現実の世界では、トランスジェンダーであることは、ばれないよう過ごしたつもりだ。
ただ、許容出来る部分では、ぼくは、女の子に近づこうとした。中学校の制服は、学生服で夏は白のワイシャツと決まっていた。こんなの自分にはふさわしくないファッションだと思いつつも、しっかり守ったのだが、私服の時に僕は、ぎりぎりのおしゃれをした。ピンクやバイオレットのワイシャツやTシャツだった。そうした色の服にジーパンなんかを穿くだけでぼくの心の満たされ具合が違った。
周囲には、派手さやカッコよさに結び付けるように行動すれば問題なかった。この辺り、リトルリーグシニアで野球をやっていることが役にたっていた気がした。
ブラックジャガーズのシニアチームで中学三年まで野球をやったぼくだったが、同じチームに恋するような選手はいなかった。だから、普通に練習に出られた。
アイドルグループ、「光ボーイズ」のタケルの存在が大きかったと思う。当時、愛とか恋とかのフレーズは、タケルに捧げるためにあったのだった。イケメン、歌って踊れるタケルのことを考えるだけで、体温が上昇する感覚があった。もし、タケルという存在がなかったら、どうだったろう。誰かと特別親密になろうとして、チーム内で浮いた存在になり、ブラックジャガーズから追い出された可能性もあった。
それが、第一志望の文武両道のサエグサ学園高等部に入学、野球部に入学した時から自分の中の世界が変貌した。
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