あと2年、、耐えられるかな、と泣く貴方!婚約破棄ですか?

風子

第1話 うっかり立ち聞きしてしまいましたわ

「・・・あと2年、、あと2年、僕は耐えられるだろうか?

 無理じゃないか、、もう、、兄上、どうしよう?」


婚約者のアルバートの兄が来ているというので、一緒にお茶でもと誘いに行った私。

アルの私室のドアをノックしようとしたところで、その切羽詰まった声が聞こえてきた。

はしたないかとは思ったけど、ドア越しに耳をすます。

アルの兄上がなだめているようだが、内容までは聞き取れない。

ドアをノックしようと、先ほど丸めた右手をぐっと握りしめる。


後から私を追いかけてきた侍女のマーガレットが訝しそうな目で、ドアに耳を付けて膠着している私にため息をつく。


「お茶の準備が整いました」


大声で彼女が呼ぶと、


「ありがとうございます。すぐに伺います。」


と、返事があった。


*****

「ねえ、マーガレット、、」

「はい、王女殿下、どういたしましたか?」

「・・・アルバート、変よね、最近」

「はい。殿下が階段落ちしてからですかね。まあ、もともと、少し変ですが。」


マーガレットは王女の自室でお茶の用意をしながら、淡々と受け答えする。

彼女も婚約者のアルバートと同じ時期に王城に侍女として上がり、以来、二人三脚のように厳しい帝王教育、社交、、、もろもろを乗り越えてきた。

エリザベスが16歳になったこの冬、マーガレットが休暇に入った隙に変わりの侍女に階段から突き落とされてしまった。

侍女、といっても身元のきちんとした貴族の娘である。その娘は、拘束された際に奥歯に仕込んだ毒を噛んであっけなく死んでしまった。アルは命を受けた宰相の息子と騎士団を率いて直ぐに侍女の領地に乗り込み、関係者を捕らえ、関係書類を押収したが、黒幕の正体まではたどり着けなかった。


「アルはね、、、婚約破棄したいのかしら?」

「??はい??」

「んんん、、、小さい頃から一緒にいたから、アルの気持ちなんて改めて考えたことなかったなあ、、ほんとは王配になんかなりたくなかったのかなあ、、めんどくさいもんね、、年がら年中命を狙われている女の面倒見るのも」

「??はい??いったいどうされたのですか?」

「そうねえ、最近、私のところには寄り付かないのに、シャーロットとダンスの練習していたり、、」

「妹殿下はちょうど10歳におなりですから、社交の練習が始まりましたね。アルバート様はダンスがお上手ですから、お相手には最適でございますね。」

「・・・ろりこん、なのかしら?」

「???」

「私の小さい頃はアルは優しかったもの。私、育ってしまったから、、あきられたのかしら?」

「はい???まあ、確かに殿下はここのところ、女性らしい体躯にお育ちです。出るところは出て、腰は細く。」


マーガレットはつくづく王女殿下の寝間着姿を眺める。

金色に波打つ髪、潤んだ澄み切った青い瞳、やっと包帯の取れた白い陶器のような腕。ここのところ急激に育った、柔らかそうな胸。問題があるとしたら、、、


「私がケガで踊れなかったとき、隣国の王女様と踊ってたわ、、楽しそうに」

「はい。お見舞いにおいで下さったナターシャ王女に敬意を表して。だけですよ?」

「階段落ちして、転生に気が付いて、魂の番を探す旅に出たいとか?

隣国の王女と禁断の恋をして、駆け落ちしたいとか?」

「階段落ちしたのは、アルバート様ではなく、殿下ですよ?

何か、、楽し気な読み物でもお読みになりましたか??」


ミルクティーが優しい湯気を上げている。


「アルがね、実家に帰るのですって。」

「ああ、伺っております。来年の婚姻準備のために、とか?

一年早まったのでしょう?此度のような事件が続かないように。世継が生まれれば、王位を狙っている者も黙るだろうと。」

「はあああ」


殿下はミルクティーを一口飲むと、長い長い溜息をついた。


*****

「まあ、とりあえず陛下には話を通しておいたから、明日にでも家に帰ってこい。

あ、、エリザベス殿下にはきちんと説明しろよ。婚姻の準備だ、と。」

「ありがとうございます、兄上」


眼の下に隈を作って、眠そうな、疲れ切った顔の弟を眺める。

さらさらとした銀髪にアメジストのような紫の瞳。黙っていればこの上なくいい男なのに、今のこいつはポンコツだ。

王女殿下が階段から突き落とされてから、ほとんどろくに寝ていないのではないだろうか。犯人の関係者は全て拘束した。事が事だけに、処刑、及び領地没収は免れないだろう。問題は、いつまでたっても黒幕が捕まらないこと。

これまでも、毒を仕込まれたり、誘拐されそうになったり、いきなり刺されそうになったり、、、多々の困難をこいつらは乗り越えてきた。階段落ちなんかかわいいもんだ。

だが、これからのことを考えると、たとえ些細な事でも、、、そう、殿下のお腹に子どもが居たりしたら、、取り返しのつかないことになる。

妹殿下もいまは幼いが、継承権が発生する18歳が近づけば、この繰り返しになる。

黒幕はわかっている。残念なことに。

王弟の後妻の子。王弟は継承権を放棄しているので、継承権3位になる。

もともと出生に疑惑がある困った方だ。この国の王族は金髪碧眼が強く出るのだが、

茶髪に茶色の瞳の、月足らずで生まれたでこの方は、、もともと婚姻前に仕込まれていたのでは、と言われ続けている。まあ、後妻も茶髪なので、母親似、と納得させられてはいるが。多分、いや、9割9分黒幕はこの後妻の実家、ハリー侯爵家。

しかし、これまでの事件でも、何の証拠も出てこない。

今回の事件で、跡継ぎを急いでいる、と、婚姻を1年早まる通達を出して頂いた。

弟は婚姻の準備で実家に戻る。社交界に情報はもれなく流した。尾ひれがついて噂が流れている。

非常に危険だが、つねにべったり王女陛下にくっいているうちの愚弟が離れるこの期間を、先方さんも逃しはしないだろう。


*****

「おはようございます。」


マーガレットは王女の自室の重いカーテンを開ける。春先の淡い朝日が降り注いでいる。階段落ち以来、朝から晩までマーガレットが傍から離れないようにして、他の侍女を部屋に入れない。もちろん、ドアの外には常に近衛が付いている。


「王女殿下は本当にアルバート様が好きですよねえ」

「へ??どうしたの?」

「お顔に泣いた跡が、、、夢でも見ましたか?」

「ああ、、、小さい頃の夢を見ていたわ、、、まだ、女王だの王配だとか、よく理解できていなかった頃の、、楽しかった」


洗面用のお湯を用意して、マーガレットはため息をつく。無自覚か?


「アルバート様はご実家に戻られたとはいえ、執務に毎日のようにいらしてますでしょう?今日も時間が合えばランチをご一緒できますよ?」

「うーん、シャーロットも一緒にね。あの人、シャーロットと話すのが楽しいみたい。私のところ見ようともしないし、、、政略結婚てさあ、大変だよね?

マーガレットの婚約者は?やはり家同士のお付き合いなの?」

「わ、、私の婚約者ですか?はあ、、まあ、、」


話しながらも、てきぱきとタオルで綺麗に殿下の顔を拭き上げ、お湯を下げる。

マーガレットはアルと一緒のタイミングで、侍女兼遊び相手、として王城に上がった。貴族の娘には違いないが、動きやすさ優先でお仕着せの侍女服に、髪はポニーテール。なぜだか自分の婚約者に言われて、城に来てからは黒ぶちの伊達メガネを掛けさせられている。


「で?で?どんな人なの?そこに、愛はあるの?」

「殿下、、、また何か変な読み物を読まれましたか?

普通ですよ。まあ、小さい頃から現実主義者でしたね。愛されている自覚はありますが。本人は婚約者が不在なのをいいことに羽根を伸ばしておりますよ。」

「ま、、まあまあまあ、、、いいなあ」

「なにがですか」


階段落ちした後のアルバート様の様子は聞いている。領地に帰っていた私のところにも聞こえてきた位、見たこともないほどの怒り様だったらしい。

あまりにも当たり前すぎて、愛されている自覚がないとは、、、やはり天然?


「王命だとは言え、小さい頃から婚約者でさあ、、、自分の感情なんか出せないし、やっぱり言いだしずらいのかなあ、婚約破棄とか、、、私から言って、アルを自由にしてあげたほうが良い?」

「・・・王命ですから。」

「私もさあ、アルが婚約破棄したら、また違う人をあてがわれるんだろうね」

「王命ならば、、あなた様は王女殿下ですからね。て、言うか、、婚約破棄前提なのはおかしいです。」

「はあああ、、、だって、、、アルから、その、好きだ、とか、、、愛してるとか、、そういえば言われたことないなあって、、、マーガレットはいいなあ、愛されてんでしょ?」

「・・・んん??」


*****

皇太后陛下の離宮での舞踏会が開催される。毎年、初夏の時期に開催されるが、今年はなんとアルバート様が丁寧に、しかも、お手紙で、、王女殿下に欠席を知らせてきた。ちょうど国王陛下に地方男爵家の監査を命じられたらしい。これは、、、、

噂話に花が咲くな。

マーガレットは干物みたいに伸びている王女殿下を横目に、舞踏会用のドレスを選んでいる。殿下のドレスは、紫に銀糸を使ったものがほとんど。オーダーも当たり前のように、紫に銀糸。夏用に軽やかな素材のドレスを見繕う。無意識?というより、あのアルバート様の瞳の色が大好きなんだろう。無自覚。残念な人だ。


「パートナーはどうされますか?」

「んー誰を連れて行ってもめんどくさいから、お父様と行くかなー」

「従兄弟のチャールズ様からお誘いが届いておりますが、、ドレスも」

「あーいいんじゃない、、なんでも」

「殿下、、、」


他の貴族子息は様子見している中、王弟の御子息である、チャールズ様の前のめり感はびっくりする。まあ、社交界ではいろいろな噂が流れてはいるが、、、段取り良すぎだろう!!しかも、チャールズ様の髪と瞳の色の茶色のドレス?着るか???せめて差し色にするとか、茶色の刺繍を入れるとか、、、なんかあるだろう?


「ご返事してよろしいんですか?」

「いいよー」


まったく!私はアルバート様の甲斐性のなさに腹を立てる。イライラして、殿下の受け答えにもきつく当たってしまう。いかんいかん。

茶色のドレスを箱に戻し、クローゼットの奥底に沈める。


*****

その日、透き通るようなきれいな紫のドレスに身を包んだ殿下を、これでもか!!というほどきれいに仕上げる。完璧である。気の抜けた本人以外は。

でもまあ、そこは、だてに社交を学んできたわけではないので、チャールズ様が迎えに来た時には、外用のお顔に変わっていた。

エスコートしようと手を差し出したチャールズ様の頬が赤くなっている。茶色のドレスを着なかったことは、気にしないことにしたらしい。

馬車に私も一緒に乗り込む。近衛が1名付いた。目深に帽子をかぶり、顔はよく見えないが、よく鍛えた身体をしている。


チャールズ様は眩しそうに殿下を眺めながら、次から次と話題を振っているが、

「はあ、、」「へえ」

とか、、抜け殻になっておりますよ、殿下!

近衛は身じろぎもせず控えているが、「チ」とだけ聞こえた。

ち?


*****

舞踏会も盛り上がってきたころ、ドドーンっと大きな破裂音が聞こえた。

爆発か、と場内は大騒ぎになった。一時騒然となったが、サプライズの花火の打ち上げだったらしく、窓際に人々が集まっている。そのほんの一瞬のスキで、王女殿下を見失ってしまった。連れてきた近衛はもう走り出している。

チャールズ様の姿も見えないので、一緒に庭園に出たか?人ごみのテラスか?それとも、、、

走る近衛の後に続く。王族に割り当てられた休憩室に向かっているようだ。

嫌な予感しかしない。途中で、アルバート様の兄上が合流した。不思議と楽し気な笑みを浮かべているので、ちょっとむかつく。今日のお仕着せの侍女服は長めの丈なので全力疾走しづらい。スカートの上から、そっと忍ばせた短剣を触って確認する。


「失礼します。」


近衛の言葉は丁寧だったが、鍵のかかった重厚なドアに、足蹴りをかましている。

中々開かないことに切れたのか、体当たりになる。いやいや、皇太后の離宮だけど、、いや、、容赦なくていいな。


「この野郎!!」


ドアをブチ破った近衛は見た。

股間を抑え、青ざめて震える、傷だらけの、、、、

チャールズ様の姿を、、、、

駆け寄った私たちは、緊張のあまり、構えの格好をしたまま固まる王女殿下を回収し、ありったけの大声を、出す。


「きゃああああ!!王女殿下がああああ!!!」


わらわらと、警備の騎士が集まり、うずくまるチャールズ様を確保する。

騒ぎに国王陛下も駆けつける。現行犯だ。言い逃れはできない。


「ぼ、、ぼくは、、お母様に言われて、、エリザベスを好きにしていいと、、

ぼ、僕の婚約者になるから、って言われて、、、」


王命で、王弟の後妻と、後妻の実家の侯爵家がその場で拘束された。

実行犯をチャールズにした段階で、この計画は失敗だった。王女の護身術の実力を知らなかったのだろう。詰めが甘い。か弱い女の子一人、部屋に連れ込んで、既成事実を作ってしまえば、あとは何とでもなると、、、社交界で流れた婚約解消のうわさを真に受けて隙をついたつもりだろうが、思ったより簡単にハマってくれた。


「フィリップ様、、、お顔が、にやけておりますわよ。ちょっと、不謹慎かと、、、」

「・・・ん・・」


マーガレットに指摘され、顔を直す。きれいな銀髪に、アルバート様より濃い目の紫の瞳が眼鏡の奥できらめいている。兄弟よく似ているが、弟君の天然さに比べ、兄のフィリップ様は冷淡な、現実主義というか、、隙が無いというか、、

マーガレットはしばらく顔を無表情にもどしたフィリップを眺めていたが、視線に気が付いた彼が、マーガレットの手を取り、指先に唇を落とす。


「これでようやく、片付いた。長かったね。」


と、微笑んだ。


*****

当のエリザベス殿下は付き添いの近衛が、お姫様抱っこしたまま、王城に帰ったらしい。慌てふためく近衛は、きれいな銀髪だった。


****

王弟の後妻は、自白剤であらかたのことを話してくれた。

チャールズは王弟の実子ではないこと。

チャールズを王位につけようと謀ったが、中々うまくいかないので、婚約破棄の噂が流れ、アルバートがエリザベスのエスコートもしないことを聞きつけて、今回の事件を起こしたらしい。既成事実さえ作ってしまえば、子供ができる可能性もあり無碍にもできまい、、、王位が無理なら、王配で。

チャールズ、王弟の後妻、この後妻の生家ハリー侯爵は処刑。領地は没収。

王弟は大公を返上し、地方に下った。一連の事件に関係がないとはいえ、お咎めなしというわけにはいかなかった。


大公領は王家管轄とし、シャーロット殿下が18歳になったら大公として下ることが決められる。


「やっと終わったよ、、ほんと、長かったあ」


一連の事件をかいつまんで報告し、フィリップは膝に乗せた婚約者の胸に頭を摺り寄せる。彼女は慣れた手つきでそのサラサラの銀髪を撫でて、


「はいはい。でも、あの花火の時は、危険でしたね。あの近衛がいなければ、見失っていたかもと思うと、、ぞっとします。」

「何のためのあの近衛だと?奴が王女殿下から目を離すわけない。ましてや、違う男にエスコートされてるのに。」


フィリップは楽しそうに笑った。まあ、それもそうね。


「ところで、」


思い出し笑いしている婚約者の頬をおさえて、私はここのところの疑問を聞き出す。


「そもそも、、階段落ちした辺りから、なんで婚約破棄なんて噂が流れたの?

まあ、アルも挙動不審だったし。全部あなたが?」

「あ、そこから?」


濃い紫の瞳が煌めくと、フィリップは頬を抑えているのをいいことに、キスを降らせてくる。油断も隙も無い。


「あれはねえ、、王女殿下の寝間着姿だね。僕じゃない。

弟は、まさに、身も心も持っていかれたらしい。

で、僕に相談してきたのさ、、もう、我慢できないかもしれない、って。ぶはっ!

部屋を転げまくってた。耐えられナーーーーいい!!って。

小さい頃から一緒にいすぎたんだろうね。妹みたいに思っていた人を、急に大人の女性として意識しちゃって、挙句に殿下はいつも通りアルを抱きしめたんだろう?寝間着姿で。し、、、しかも、、胸で、、、ぶはっ」

「はーーーーん。

まあ、なんとなく、そんなことだろうとは思っておりましたが、、

アルがあなたに相談しているのを、エリザベス殿下が立ち聞きしてしまったようです。悩んでいらっしゃいましたよ。アルが、、ロリコンじゃないかと。」

「ぶはっ、、、いやいや、遅く来た思春期、って感じ?

あいつも男だったんだねえ、ははっ!

あの後も、見舞いに行くたびに殿下は寝間着姿で、奴はもう、、、耐えられなかった。」

「笑いごとですか?!まったく!」

「ああ、怒った顔もかわいいよ・・」

「でも、まあ、貴方は思ったより、弟思いなのね、アルのために、、婚約期間を1年詰めたり、危険を回避してくれたり、、」

「え?」

「・・・え?」


*****

僕のかわいい婚約者のサラサラの黒髪にキスして、腰を寄せる。

長かった、、ホントに。

若草色の瞳が驚いたように僕を見下ろす。

腰を寄せたついでに、太ももを撫でたら、今日も、、僕との逢瀬だというのに、

短刀が仕込まれていた。まったく。

あの二人を守り通せたら、僕はやっと君を手に入れることが出来る。

8年もの間、王家と彼女の実家の辺境伯とうちの公爵家が、僕から君を取り上げてしまった。荒事に秀でた彼女を王女殿下の側に侍女として召し抱えてしまったから。

僕は出来得る限りのことをした。誰にも取られないように彼女にはお仕着せの侍女服を着せ、黒縁の眼鏡を掛けさせ、髪も一本に結い、ひたすら目立たないように。

彼女は王女殿下の侍女兼遊び相手兼護衛として侍った。8年も、、、僕といるより長く弟といた。屈辱だ。

僕は婚約者不在の公爵家嫡男として、しかも、王家とつながりが深い、優良物件として、数多の危機的状況を回避するように生きてきた。8年も!

すり寄ってくる令嬢とその家族。それを冷ややかに見ている婚約者とその家族、、、

僕は父上の仕事の補佐として15歳から登城した。もちろん、婚約者の様子を見なくちゃいけないから。変な虫が付いたら叩き潰さなくちゃいけない。耳元で愛をささやく。侍女生活を意外なほど楽しんでいる彼女に、忘れられないように。

まあ、ついでに、お茶を飲みがてら弟の様子も見て。


「マーガレット、愛してるよ。

もう、すぐにでも結婚したい!」

「え?」

「ドレスも式場も用意した。僕たちが結婚したら、両親は領地に下って隠居するらしい。爵位も置いていくらしい。ふふっ」

「き、、急すぎない?」

「8年も、待ったよ!」


フィリップはマーガレットの薬指にガーネットの指輪をはめて、抱きしめた。

彼の濃い目の紫の瞳の色が大好きだ。

言葉って大事だ。フィルはなんでもかんでも言葉にして伝えてくれた。警備の都合上、文書に残せないので、手紙のやり取りはしてこなかった。

いっとき、ちょっとやり過ぎ、というか、愛が重すぎない?と、思ったことは多々あったが、、、

8年、陰になり日向になり、王女殿下と王配になるアルバートと私を支え続けてくれた。愛されている自覚はありますよ。ふふっ


「そうね、フィリップ、これからもよろしくお願いしますね。

えっと、、、、大好きです!」


私もなるべく言葉にしていこう。長年の付き合いだからって、以心伝心は難しい。

そう思って、彼に伝えると、らしくなく真っ赤になってうろたえた彼が私の胸に頭を埋めた。今だから、彼の必死さがわかる。


「・・・ありがとう、」


優しく彼の髪をなでると、優しい風が吹いた。

穏やかな日々が続く予感がした。





















*****


















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あと2年、、耐えられるかな、と泣く貴方!婚約破棄ですか? 風子 @kazeko

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