第3話

ぴーぴい




 鳥のさえずりが聞こえてくる。




ふあああぁ



 目を開くと石の天井が朝をお出迎えした。

 冷たい床に、朝にしては暗い部屋、日が入っていないのか?


 そんな疑問を抱きつつ、重い体を起き上がらせる。





「せ、セーフってところかな…」


 メイルは自分の下半身の衣類に目をやった。






 切り替え、寝ぼけた頭を働かせ、周囲の状況を確認する。




「ここは……牢獄?」


 よく見ればそこは監禁されている状態に等しかった。

 周りには誰もいない。まずまず狭すぎて入る隙間はないだろう。





 光の届かないこの部屋はひんやり冷たく、その冷たさが孤独を感じさせた。






「今の時期には丁度いい温度だなぁ。飯さえ出れば今年の夏はずっとここでも悪くはないかもしれないな」

 


 手を後ろにつき、そんな馬鹿げた話を考えてるうちにメイルを封じる鉄扉は開かれた。





ギ、ギィィィ





「お前!昨夜、姫の部屋へ逃げ込んだな?」



 ベルザールだ。




 メイルと嬉しいのか、やけに機嫌が良い。


 前で腕を組み、仁王立ち。おまけに興奮した獣のように鼻をひくひくさせている。





「うぐ……」




「俺だって姫のお顔を拝見したことはない。これがバレればどうなるかよくわかるか??」




 そう、メイルもそこら辺は理解していた。いやこの国の民であれば一般的知識。







――「王女の仮面の下を見た者は死刑に処す」




 この決まりは王女がまだ幼子のとき既に王の口から直接下されていた。




 反論の余地なくそれは定められる。


 普通なら皆、指一本触れることができない存在だ。誰かその仮面を剥がすことができようか。




――ただメイルは、偶然にも庶民か拝むことの許されないその顔を見てしまった






「死刑…」



 まぁ他の庶民の場合とメイルの場合はちがう。



 だってお顔拝見だ!け!で!な!く!王女にバックハグされながらの睡眠!!!!



 顔見て死刑ならこれはなんの刑で処されるのやら。






「だがなんと!お前が姫と寝たのを知ってるのは俺だけだ。何が言いたいかわかるだろう?」




「…はあ、交換条件ってとこですか?」





「さよう。条件はうむそうだな……身請けでどうだ」




 ベルザールは相当マイルを気に入ったらしい。対して話もしていないのに容易く身請けなどと口にする。


 マイルをおもちゃか何かと勘違いしているのか?と問いたくなるほど度が過ぎている。






「ベルザール様…。貴方誰の許可を得てメイドさんをリヤ様の部屋へ侵入したというのですか?ご自身自ら入るなんてことはなかったとしても、メイドさに指示を出したのは紛れもなく貴方のはずです。」





「ぎくっ!」





「この時点で貴方も何らかの罪にとわれますね…ということで、私とベルザール様が王女の部屋に侵入した、この2つの事実をバラさずお互い守ることが交換条件ということですね!」




 普段表情をかえメイルは珍しく笑顔を浮かべた。それも少し気味の悪い小悪魔のような笑顔で。



 メイルは着崩れた着物を瞬時に整え、ベルザールの目の前までやっていった。腕を後ろで持って、もう一度嫌な笑みをくれてやった。






「…こんな綺麗な顔でもこのような表情が作れるのだな」




 先程のはっちゃけた雰囲気はなく、珍しく真剣な眼差しでこちらを見ていた。



「え」




 ベルザールは跪き、メイルの手をとり、手の甲をベルザールの唇で触れた。

 彼の唇は冷たくて、固くて、力強い。





 これは相手への忠誠を誓うもの。また、貴方を想う。そういった意味が基本的に存在する。




 メイルは混乱した。


 だって自分よりも圧倒的に地位の高いお方が貧民街で暮らすような身分の少年に跪くなんて…。






「何故このようなことを」



 何も隠すことなく抱いた疑問を本人に問いかけた。

 

 メイルも流石に動揺が隠せない。証拠に手が落ち着かないで震えている。










「好きだから、それだけだ。あとお前も身請けしたいというのも本当だ」




 後ろ姿を見せ、その言葉だけ残してベルザールはこの牢屋をあとにした。

 







 取り残されたメイルはただ唖然として、その後ろ姿を見届けていた。
















 誰もいない廊下に二つ靴の音が響き渡る。





「ベルザール様」




「なんだ」




 その名を背後から呼んだのはベルザールに仕える多くのメイドの内の一人、シェナという少女だった。


 黒髪の長髪でくせ毛、頭上のアホ毛が印象的な少女だ。落ち着きがあってクールな印象で年齢はメイルと同年代だ。身長は低くも高くもない。




「…何故あのような新造を」





「会った瞬間わかった。あの新造は絶対美女になるってな!着飾れば今の未成長段階でも相当なものになる。はは!」



 ベルザールは鼻を高くして自信満々な表情で廊下を歩いていった。彼はどこまで行ってもこの調子だ。



 王宮でもずっとこのような調子で自分の欲望のまま動くため、女には目がないし、自分のメイドだって顔で選んでいるものも多い。





「何故あんな者……」


 シェーナは昨日の晩、王女の部屋で寝るメイルの姿を思い出した。

 着物ははだけ、女らしくない顎したくらの短い髪、足の裏にはまめのようなものまでできている。






「…あの女」

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