第105話月の仕掛け
「今なら見えるだろう? 姿かたちが似通っていても、魂の形は皆違うんだ」
シュウマツさんの言葉に僕は頷いた。
「全然違うね。こんなにも違うものかい?」
「ああ。面白い物だろう? それに魂は嘘が付けない」
「面白い……けれど、今は残念が先に立つなぁ」
僕は、今までと違う視点で彼らを見ていた。
魂の色が見える。
そしてやって来た人間と思われる人達は全員、体の方に異常があるから、すごく色が濁っているのも理解できた。
それなのに彼らは銃なんて持って、元気に歩き回っている姿は、どうにも落ち着かない。
色がないのはコロニーから送られてきた方々だろう。
僕はようやくシュウマツさんが初見で、違和感を覚えると言った意味が理解できた。
どちらもとても不自然だが、僕にはその理由がとてもよく分かった。
まぁ、やっぱり怪しいの一言なんだろうけれど、ただの一人も自分の意志でここに来てくれなかったのはやっぱりちょっと残念だ。
シュウマツさんがフーさんや白熊さんを最初に見た時もこんな感じだったのは間違いない。
石橋を叩いて渡るための彼らだ、そこは責めるところではないのだろうけれどやっぱり残念という他なかった。
そして、チャンスは最初の一回のみと決めている。
それはそうだ。
だって二回目以降を待っていたらそれこそ、話し合いで済むとも思えないのだから。
さて、集まった兵士達はしかし、どうにも感情が読み取れなかった。
戦闘服を着ているが、特別殺気だっているわけでもない。
淡々と作業をこなしているように見える彼らに、説得が通じるとも思えなかった。
現在は狙い通り、それぞれがけん制しあう三つ巴である。
それに、僕がただの詐欺師か、どこの勢力の回し者かその辺りを探る視線が露骨だった。
そんな中、真っ先に前に出たのは見たことのある顔である。
「あなたは?」
顔は知っているのだけれど、あえてそう尋ねると彼女は笑みを浮かべて名乗った。
「先ほどまで砲火を交えていたというのにずいぶんだ。私はF1と呼ばれている。月の指揮官だよ。まずは健闘を讃えたい」
銃を構え、こちらへ歩み寄って来るのは、一番最初にメッセージを送って来た月人の女性だった。
「貴方がこのコロニーの代表かな?」
「はい。カノーといいます。代表と言うほどの者ではありませんが、月と地球出身の彼女達と共に、三人でこのコロニーを運営しています」
「……三人でコロニーの運営? そんなことが可能なのか?」
コロニーと地球の兵士は月人の女性にも銃を突き付けていたが、彼女には怯んだ様子もない。
それどころか、F1の視線に憐憫のようなものを感じ取って、僕は首を傾げた。
「ええ。僕達独自の技術ですが。可能ですよ」
「……フフッ。そうか。そうか。……いいことを聞いた。ならこの場は……私の一人勝ちということだ」
「どういう意味です?」
「こういうことだよ。コード2962! 全員膝をつけ!」
F1の大声は、もちろん別段魔法というわけでもなく普通の言葉だったのは間違いない。
しかし効果のほどはある意味魔法以上だったとも言える。
魂の色がより濁ってゆくのが見えた。
まず地球の兵が、そして少しだけ間をおいてからコロニーの兵すらも、彼女の前に膝をついたのだから。
勝ち誇るF1は、改めて僕に銃を構えた。
「このコードは強化体の制御コードだ。こんな場所にやってくるのは強化体しかいないと踏んでいたが、地球の奴らを巻き込んだのは失敗だったな。地球にこの手の技術を提供したのは月なんだよ。フェアリーシリーズも、PBシリーズも私がいれば手足も同じだ」
僕は得意げに語られた話に思わず横にいる白熊さんに視線を向けた。
彼女は眉一つ動かさないが、悪いことをしてしまったのかもしれない。
彼女達にしてみれば、衝撃の事実というやつなのは疑いようもなかった。
「ああ、そうか……やっぱり。白熊さんは美人過ぎたし、名前からしてちょっと怪しいなって思ってたけれど」
「力を持て余した地球の“白熊さん”にはお似合いだろう? 中々皮肉の効いたジョークだよ。ここにも地球人がいたのには驚いた。それにコロニーのお人形さんもすでに対策済みだ。電子機器を操るのは我々の得意技なのでね。技術というものは日進月歩だな、今回は私達に分があるようだ」
「なるほど……コロニーの技術も立つ瀬がないなぁ」
F1の言葉は真実らしく、アンドロイドの挙動がおかしい。
F1という月人はやはり特別な個体なのか、AI人種の操るアンドロイドのシールドすら、貫通できるようだった。
「だが動ける君は普通の人間なんだろう? ここはやはりコロニー由来の建築物なのかな?……いや、事実確認は後でいいか。では君にチャンスをやろう」
「チャンスですか?」
「そうとも。ここにあるすべてを差し出すんだ。そうすれば命は助けてあげよう」
そんな身も蓋もない提案をするF1を僕は見上げたまま、器用に肩をすくめてみせた。
「……いかにも悪党のセリフですよそれ?」
「まったくだ。しかしそれくらい、君達の技術に価値を見いだしているということだよ。我々の理想国家建国のために協力する気はないかな?」
さらりと脅迫から勧誘されてしまったけれど、あまり魅力的な申し出ではなかった。
「こんなポッと出の謎技術に手を出さなくても、月の技術はすごいじゃないですか。 こうして集まってくれた人達を出し抜いているんです。実質世界一ですよ?」
「こんなもの一時的な物だとわかるだろう? それに謙遜の必要はないよ。このコロニーがあれば人類は更にこの先の100年を飛び越えられる。私はそう確信しているとも」
色々と一気にしゃべってくれるお姉さんだなと僕は嘆息した。
そんなに評価してくれているとはある意味では光栄である。
ただし痛いのは嫌なので銃口を向けられていなければという話ではあるが。
「では返答は?」
「お断りします」
「……だろうと思ったよ」
それは僕もそう思った。だって魂は嘘を吐けないから。
ガンと銃声が響き渡る。
こればかりは進化しながらも、数千年前から変わらない武器は安定した性能で僕の頭を吹き飛ばした。
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