第104話落ち着かない時間
説明しよう。
外宇宙探索船ニライカナイは、この直径8000メートルに及ぶニライカナイコロニーごと移動するために設計された、全長9000メートルを超える巨大宇宙船である。
まぁ要するにコロニーに推進力をつけて逃げ出そうというものなのだけれど、そこはきちんと宇宙船としての役割も備えていた。
純白に染められた魔法金属合金製多重装甲の、流線型ボディ。
中ほどあたりは少々おデブちゃんだが、あまりある格納スペースの証拠でもある。
快適な居住スペースに、大型の格納庫。
更にはトラブルに備えて、戦闘用の武装も装備している。
そして……とある極めて特殊な機構を備えていることから、若干複雑な内部構造をしているものの、それを補って余りあるパワーと操作性を実現していた。
現在、僕らは船の中の出来るだけ広い部屋で待機中だ。
演出用に僕用の椅子を用意したわけだがやたら目立つ構造になってしまったその場所は、まるで王様の部屋の様だ。
ただ本来の目的はアウターでの模擬戦も想定した、特殊な訓練場の予定だから人を沢山迎え入れるのにはおあつらえ向きだったわけだ。
「まさかこんなものを作っていたとは……」
「なんでこんなでっかいものを隠しておけるんだか」
傍らにいる、フーさんと白熊さんからは信じられねぇという非難混じりの刺すような視線を向けられているけれど僕はとても、満足だった。
「異世界では収納ボックスと呼ぶらしいよ? ビックリだよね」
「箱なんて規模じゃないでしょ……」
唇を尖らせるフーさんは納得いっていないようだけど、こちらと理が違うからこその異世界だとそう思っている方が健康には良さそうだった。
おかげで最小限に目撃者を抑えつつ、最高のお披露目を迎えることが出来たわけだ。
さて、各勢力の船から僕は彼らをニライカナイの中に招き入れることが出来たが、ここからが本番である。
お客さま方は、中に入って来るのをためらうかと思いきや思ったよりずっと素直に乗艦してきた。
それぞれに思惑があるのはもちろんだが、あまりにも行動が迅速なのが個人的には気にかかったくらいである。
「何か企んでいるのは確定ですよ」
とはオペ子さんの言葉だが、それはそうだと思う。
「そりゃそうだよ。ああ、まぁだからか。遠路はるばるやってきてためらう時間がもったいないのはわかる」
「危機感がありませんね」
しかし怪しさしかない言葉に乗って来るのは、ここに集まったすべての者達の思惑が、まずは僕らの事を知りたいからだろう。
「興味を持ってもらえるのなら喜ばしいよ。結局見てもらった方が早いだろうし」
僕なんかはそう思うけれど、フーさんはどこか落ち着かない様子だった。
「そうかなぁ。私なんかは面と向かうのは怖いよ?」
「それは僕だって怖い。いったい何を言われるやら」
とりあえず、なんだこいつという顔は避けられない気がする。
白熊さんは、困り顔だがそう億劫というわけでもなさそうなのが意外でもあった。
「ワープアイテムのプレゼントも使ってもらえたようだから実に結構な事じゃないか」
「それはホントに。よく実験もせずにいきなり艦隊突っ込んだよ。地球も剛毅だね」
「それはそう。暇なのかな?」
苦笑する白熊さんに、僕も生温かい笑みを浮かべた。
そして何気にちょっと気に掛かるのは、僕の膝の上にいる鉢植えの事だった。
「……ちなみに。それでいいの、シュウマツさん? 鉢植えになっちゃってるけれど?」
「私も体つきで顔合わせしたくてね。いいだろう?」
「……うん。かっこいい鉢だ」
「私もそう思うよ」
今シュウマツさんは正装したいと言って、鉢植えに小さな分木で僕の手に抱えられている。
これが正装で大丈夫なのかなと思ったが、コンパクトなのはいいことだ。
それに手に何か持っていると少しだけ落ち着く。
なにせ、これから久しぶりに大人数の前に立たないといけないのだから、僕にしてみれば遮蔽物はあって困るものではなかった。
「でも怪しい提案に乗ってくれて本当によかった」
一週間前。
僕らは白熊さんとオペ子さんの名前で、地球とコロニーに連絡を取った。
一週間後の同じ時間に来て欲しいと言う招待状と、ついでにワープゲートを使用できるアイテムも添えてである。
ニライカナイコロニーのセールスポイントを出来る限り詳細に添付しておいたのが良かったのか、それとも白熊さんとオペ子さんの信頼のなせる技かはわからないが、みんな呼び出しに応じて、想像以上にうまくいったのだから脱帽だった。
さて、あらゆる場所からコロニーに侵入可能ではあるけれど、案内板のゴールは宇宙船の僕の居る場所である。
オペ子さんは艦内の人の動きを正確にモニタリングして、知らせてくれていた。
「来ますよ。銃で武装した一団がなだれ込んできます」
「うん。助かるよ」
オペ子さんの言葉でピリリと空気が引き締まる。
「さてどうなるかな?」
シュウマツさんが尋ねて来たけれど、こればかりはやってみなければわからなかった。
「どうだろう? まぁここまで来たらなる様にしかならないよ。ああそうだ、君達に一つ言っておくことがあったんだ」
僕は呟く。
何気ない一言を聞き逃さずに、僕の仲間達は僕の言葉を待っていた。
「これだけは守って欲しいんだけれど。絶対僕に何があっても動いちゃダメだからね? これは約束」
少々不吉な物言いだとはわかっていたが、フーさんも白熊さんも僕の言葉に無言で頷いた。
言うべきことを言い終わると、彼らはとうとうやって来る。
僕は椅子から立ち上がって彼らを出迎えた。
「改めてようこそ。皆さん」
さて彼らはどういう人達なのだろう?
僕はここまで期待以上に招待に応じて、僕の前まで来てくれた人達をこの目で見定め―――そしてちょっとだけガッカリした。
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