第6話使えるものは何でも使うのが鉄則

 さて、最初に僕が始めたのは、コロニー周辺の探索だった。


 コロニーの中ではなく外。


 アウターに乗り込み、宇宙空間を探索することしばらく、僕は目的の物を発見することに成功していた。


 真っ暗な空間に、浮かぶ明らかに小惑星ではないガレキ。


 それは、かつての実験船の残骸だった。


「あった……。いや、しかしひどいな」


 実験船は実験施設を備えたかなり大型のものである。


 人員こそ最小限で運営されていたが、各種実験機材と長期の宇宙生活を前提に作られた船はその大半が切り取られたように削り取られ、崩壊していた。


 元居た座標からズレていたが、それは確かに僕が乗ってきた船だった。


「あーやっぱり何か……やばい事故でも起きたかなぁ……起きたんだろうなぁ」


 想像することしか出来ないが、船が完全に破壊されるような大事故が起こったことは間違いないらしい。


 だが幸い、資源を回収することならまだ出来るはず。


 倉庫区画や居住区辺りが無事なのを祈るばかりである。


「よし……これならいける。悪いけど、使わせてもらうよ」


 宇宙での船外活動はお手の物だ。


 僕は一度だけ手を合わせると、腕に装備した解体用のレーザーで残骸をかき分けながら、状況を見て回ることにした。




 見つけた使えそうな品を選別して、僕はさっそくコロニー内に運び込んだ。


 さてここで活躍するのが、やはりスペーススーツである。


 現在のスペーススーツは用途に応じて形状も多岐にわたるが、その原型は、宇宙空間で重機をより感覚的に扱うために宇宙飛行士達が積み重ねた船外活動のノウハウを生かして開発された。


 当初、宇宙服に必要な機能を外付けして着込む様に装着したことから、生命維持をするためのパイロットスーツを「インナー」。


 そして動きを拡張するためのロボットを「アウター」と区別して呼んだことが今も呼び方として定着しているらしい。


 気軽に動くことさえままならない無酸素無重力の宇宙空間。一台で様々な作業がこなせる応用性こそ、このスペーススーツの真骨頂と言えるだろう。


 だからうまく使えば、はいこの通り―――




「よし! こんなものかな!」


 僕はなかなかよく出来たコンテナハウスを眺めて額の汗を拭った。


 運搬はもちろん、溶接や切断なんかは、スペーススーツの得意技である。


「いやはや、家作りなんて初めてだったけど案外できるもんだね。ありがとねシュウマツさん。整地手伝ってもらって」


 出来上がった家をシュウマツさんに見せると、なんとも言えない明滅の仕方をシュウマツさんはしていた。


「それは構わないが……、君は驚くほど器用だな。私はほとんどやることがなかった」


「ハハハ。まぁあ、運がよかったんだ。いい感じのコンテナがたまたま見つけられたからね。でも、確信したよ。僕の元居た船は、完全にダメだ」


「それは……大変だな」


 言葉を選んでくれるシュウマツさんに、僕は仕方がないと首を振った。


「ああ、うん。残念だけど覚悟はしてた。こういうことも想定済みでみんな宇宙の果てに来ているから、君が気にしなくてもいいよ」


「そうかい?」


「うん。かろうじて残った機材はせめて有効に使わせてもらおう」


 僕は普通は生き残れない状況でたまたま生き残っただけだ。


 だが、生き残った以上は手に入るすべてを使って延命するのが鉄則である。


「状態のいいソーラーパネルがいくらか回収できたから、手を貸してよシュウマツさん。必要なパーツを頼むかもしれない」


「……た、たくましいな君は」


「そうかな? なりふり構ってもいられないだけじゃない?」


「それはそうかもしれないが」


 あきれ声のシュウマツさんだが、宇宙に住むならこれくらいの逆境に負けてはいられない。


 それに宇宙生まれの僕としては魔法に負けてばかりもいられなかった。


 ささやかな対抗心だが、腕の見せ所である。


 しかしどうしても手が回らないところはもちろんあるだろう。


「いや……そうだった。実はもう一つ頼みたいことがあるんだけど?」


「な、なんだね?」


「シーツとベッド……どうにかならないかな? 布はどうにもならなくて」


「……いいとも。任せたまえ」


「ホント! いやありがとうね!」


 それはそれとして使えるものはシュウマツさんの手だってもちろん使わせてもらうとしよう。


 やはり基本的な物こそどうしようもないところがあるのは仕方がない。


 僕はベッドのフレーム作りに精を出す。


 そしてこの日僕は、スプリングの効いたベッドに真っ白なシーツをかぶせ寝ることに成功した。

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