国民的女優

国民的女優

夏野　夢、

彼女は国民的女優である。

年に10本のドラマ、3本の映画。

仕事の数が多い。

美人であり、女優の仕事を愛している。

演技力にも定評があった。

バラエティ番組に出演した時のこと。

司会からお決まりのことを聞かれる。

「ご結婚はされる予定は…」

「そうですね。願望はありますけど、

　この仕事をしていると、

　色んな家族を持つでしょ。」

「なるほど、作品によって、

　家族が変わっていく感覚、

　面白いですね。

　しかし、

　それが楽しすぎて結婚を忘れてしまう。」

全くお決まりのやりとりだったが、

彼女の真意はそこではない。

並外れた演技力、スター性、経済力。

おまけに美人の上、抜群のスタイル。

芸の肥やしのための勉強ということもある。

沢山恋をして、その中の数人とは、

もちろん結婚を考えたことも。

しかし、

その度に彼女の記憶が邪魔をするのだ。

会社が倒産し、それでも夢を追い続けると

能登半島まで夜逃げしようとする旦那。

自分を誘拐し、刃物を突きつけ、

襲おうとする元旦那。

財閥の息子であり、

裏工作でためらいなく人を殺めながらも、

何もなかったように接してくる旦那。

トラック強盗だったのに、

その運転技術を活かし、

知らぬ間に世界平和のために戦っている旦那

自分とその息子を守るため、

魔王を倒したが、自らも力尽きてしまった

天才ヴァイオリニストの旦那。

深海の幽霊船の呪いを受け、

10年に一度しか陸に上がれない旦那。

自分は神の生まれ変わりだと信じ、

秘密結社と結託し暗躍する旦那…

彼女が結婚に夢を持てないのは可哀想だが、

平凡ではない人を描いていくので、

作品とは面白くなるものなのだ。