第21話 悲劇の洞窟
洞窟へと戻った私達が見た光景は、言葉にする事が難しい物だった。
「……え?な、なにこれ」
ミコトが言葉を震わせながら、おぼつかない足取りで洞窟の中に入っていく。
それを見たセツナが辛そうな表情を浮かべながら私の方を見ると……
(リーゼちゃん、これは……これはいったいなんなの?どうしてセスカちゃん達がこんな目に合わなきゃいけないの?)
「……」
その悲痛な言葉に対して、返せる言葉が思いつかない。
こういう時に何て声を掛ければいいのだろうか、天族なのだから暫くしたら身体が再生して復活するから気にするな?
それとも、どうしてこのような事になっているのかと、二人のように取り乱すべきだろうか。
けど……そのような事をして、全員が冷静さを失うわけにはいかないだろう、むしろこういう状況だからこそ、一人だけでも平静を装い冷静な判断をしなければならない筈だ。
「……兄貴、セツ姉達が」
「分かっている」
ミコトが地面に落ちている無残に食いちぎられたかのように千切れている翼の一部を拾い、抱きしめながらこちらに振り向く。
……その姿を見ながら洞窟内を見渡すけれど、余りにも酷いとしかいえない。
血まみれの壁におびただしい数のゴブリンや、狼の姿をしたモンスター達の死骸が転がっている。
「……あの三人がこのような雑魚にやられるとは思えないが、いったい何が?」
「兄貴……、いや!お兄ちゃん!どうしてこんな時に冷静でいられるの!?おかしいんじゃないの!?」
(ミコトちゃん、落ち着いて……?)
「落ち着いてってセツ姉も思わないの!?大事な家族が、お姉ちゃん達が死んじゃったんだよ!?いくら私達が時間を掛ければ蘇るからって冷たくない!?」
私の反応に対してミコトが声を荒げるが、これに関してはしょうがないだろう。
妹は私達の中で一番の家族に対する思いやりが強い、それなのに兄である私がそのような事を口にしたら、感情が抑えきれなくなるのはおかしくない。
(ミコトちゃん、お願いだから落ち着いて?)
「セツ姉……でも、死ぬのって凄い苦しくて辛いんだよ?」
(いい?聞いてミコトちゃん、リーゼちゃんはね?私達の為に辛いけど、取り乱さないで冷静な対応をしようとしてくれているの……、だから分かってあげて?)
「え……あ、お兄ちゃんそうなの?」
こちらの意図を理解してくれたセツナが、ミコトに近づいて抱きしめながら説得してくれたおかげで気持ちが少しだけ落ち着いて冷静さを取り戻したように見える。
とはいえ……まずは三人を殺した相手がどういう存在なのか、出来る限り早めに調べなけれならない。
洞窟には私達の匂いも残っている筈だから、もしこの惨状を生み出した相手の嗅覚が優れている個体だった場合、この場に残っているのは危険だろう。
「……何も言わないって事はそうなんだ、えっと、兄貴ごめんね?」
「いや、別に構わない……、それよりも出来るだけ早く、何があったのか調べたらここを離れるぞ?」
「え?離れるってなんで……?セツ姉達が蘇るまでここで待とうよ」
「それは無理だ、相手が嗅覚に優れていたら……私達が戻ってきたことに気付いて戻って来る、そうなった場合……私達も同じように殺されてしまうだろうな」
(……なら、三人の翼だけでも持って行って安全な場所に置いておくとか出来ないかな)
そう言葉にするセツナは、言ったはいいけれどそれが無理な提案だと分かっているようで、申し訳なさそうな表情を浮かべている。
私も出来るのなら三人の身体の一部を安全な場所に移動させたいが、ここに翼が残っている意味を考えると無理だ。
モンスター達の死骸を調べてみて思うのだが、彼等の死に方はどれも所々が異様な形に歪んでいたり、頭の一部が食いちぎられている等しており、どうやら三人の手によって倒されたわけではない事が分かる。
ならばこのおびただしい量の死体は何なのだろうかと考えたら、答えは一つしかない。
「無理だ、匂いの事もそうだが……この洞窟にある死骸達を調べてみて分かった事がある」
「……分かった事?」
「あぁ、奴らもセスカ達を襲ったのと同じ個体によって殺された被害者だ……、つまり」
(この洞窟はもう……、そのモンスターの縄張りって事?)
「そうなるな、つまりだ……、ここにあるものを持ちだしたら最後、無い事に気付いたモンスターが私達を追って来るぞ」
それを聞いたミコトは、セツナから離れると抱きしめている三人の翼を、眼を閉じながら力強く抱きしめた後そっと地面の上に置く。
「……じゃあ、私の匂いがセス姉達の翼に着いちゃったから、一緒に行動してたら危ないんじゃ?ない」
「確かにそうかもな……、だが持ち出したわけでは無いから多分問題ない筈だ」
「ならいいけど、でもさ、もし私の事を追って来たらその時は私を囮にして、二人は逃げてね?」
身体を震わせながらそう言葉にするミコトを慰めるようにセツナが頭を撫でる。
確かにそうなった場合、ミコトを囮にした方が生存率は高いだろう……だが
「安心しろ、仮に追って来たとしても囮にするような事はしない」
「……本当に?」
「私を何だと思っている、貴様の兄だぞ?妹を守るのは私の役目だ」
(なら、私は二人を守るね?だって二人のお姉ちゃんだもの)
「……そうだな、という事だから安心して逃げるぞ?、だがそうだ……その前に」
翼へと近づくと、周囲に魔力を集めて意識を集中する。
「兄貴?何してるの?」
「……翼だけになったとはいえ、さすがに全身食われてしまったら蘇る事すら不可能になるからな、こうしておいた方がいいだろう」
徐々に地面を巻き込んで翼が氷に包まれて行く。
こうすれば……私が生きている間は、セスカ達の安全は確保できるだろう。
後は……何とかして、三人をこのような目に合わせた元凶であるモンスターを討伐し安全を確保すれば、時間はかかるが肉体が再生して蘇る。
その時に改めて、何があったのか聞くと共に……私達を心配させたのだから、文句の一つや二つくらいは聞いて貰う事にするか。
「これでいいだろう……、行くぞ」
「うん……、でも逃げるって言っても何処に行けばいいの?私達ここ以外に拠点に使える場所を知らないよ?」
「それならあの宿の部屋を借りれば良い、豪華な部屋は使えないが新米冒険者用の安い部屋もあるとキクも言っていただろう?だからそこを使わせて貰う」
(……それがいいと思う、行こ?ミコトちゃん)
……そうして洞窟から出た私達は再びスメラギに向かって歩き出す。
しかし……道中で色々と考えては見るけれど、時間が経って頭の中が冷静になったからだろうか疑問に思う事がある。
シュラとセスカという、戦闘に特化した個体があのような無残な状態になる事がありえるのだろうか。
私の記憶にある二人なら、例え不意をつかれたのだとしても、自身の能力の力で返り討ちに出来る筈だ……、搦め手が得意なレイスも相手の意思を操ってしまえば問題が無い。
ならばなぜあのような事に……、考えれば考える程迷宮入りしそうな思考の中で一人、答えを探すのだった。
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